ハズバンズ

1999/12/24 映画美学校試写室
ジョン・カサヴェテスが1970年に撮った男たちの物語。
面白いのか、つまらないのか……。by K. Hattori


 ニューヨーク郊外の墓地。仲間の葬式で顔を揃えたのは、ハリー、アーチー、ガスの3人組。死んでしまったのは、いつも彼らと一緒につるんでいた親友だ。4人組は3人になり、残された男たちは言いようのない感情がわき上がってくるのを感じる。「このままじゃ家に帰れないぞ」「そうだ飲もう!」。というわけで、3人組の途方もない道草が始まる。喪服のまま酒場をハシゴして大騒ぎし、明け方になれば「よしロンドンに行くぞ!」のかけ声で機上の人。雨のロンドンでギャンブルに興じ、女の子をハントして一夜を過ごせば、ますます家に帰りたくない気持ちになってしまう……。1970年のジョン・カサヴェテス監督作品。3人組を演じるのは、ベン・ギャザラ、ピーター・フォーク、そしてジョン・カサヴェテス本人。上映時間は2時間10分。

 葬式から帰宅までの長い道のりを描く一種のロードムービーで、正直言って、面白いんだかつまらないんだかよくわからない映画だった。古い仲間の葬式から家庭という日常に戻れず、浮かれたバカ騒ぎに身を投じて現実逃避をする男たち。その姿は滑稽であり、同時に切実なものでもあるのだろう。いつかは戻らなければならない日常という現実を、目の前の酒やギャンブルや女で紛らわして見て見ぬ振りする。物語のベースには男たちの友情があり、中年期を迎えた男たちの青春への郷愁のようなものがあるわけで、それはどんな時代であっても共通することだろうと思う。しかしこうした行動は、結局のところ1970年という時代を抜きにしては理解できなくなっているのではないだろうか。映画製作から30年たった今の観客に、この主人公たちが味わっている“気分”は理解できるんだろうか。はっきり言って、僕にはよくわからない。胸に突き刺さるような、スクリーンの中に自分自身を発見するような共感は味わえないのだ。

 この映画にはつまらない回想シーンなどは一切登場せず、主人公たちの現在を淡々と描くことで、彼らが共有している過去を浮かび上がらせる。その過去とは、懐かしの1960年代だったりするわけです。混乱した'60年代が終わって、男たちは家庭の中に落ち着き、職場でも安定した地位を築き、大過ない日常を送ることに四苦八苦している。彼らは友人の葬儀に出たことをきっかけに、無分別な青春時代を取り戻すべく、最後の悪あがきを始める。そうせずにはいられない“気分”というのは、やはり'60年代から'70年代にまたがる時代背景と無関係ではないと思うのです。主人公たちは三日三晩ジタバタしたあげく、結局は'70年代の日常へと戻っていく。時代は逆戻りせず、青春も戻ってはこない。今ある日常の中に幸福を見つけ、家庭というささやかな世界の中で、つましく生きて行くしかないのです。

 特別面白いとも思わないんだけど、すべてが終わって主人公が帰宅するラストシーンにはホロリとさせられた。ドキドキするような楽しさはないけれど、家庭の中にはぬるま湯のような幸福が間違いなくあるのです。

(原題:HUSBANDS)


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