キッドナッパー

1999/11/18 映画美学校試写室
『シューティング・スター』のグラハム・ギット監督最新作。
4人組の犯罪者が主人公のアクション・コメディ。by K. Hattori


 『シューティング・スター』でデビューしたグラハム・ギット監督最新作。ギャングの下請けで金庫破りを請け負った4人組だが、物事は計画通りに進まない。金庫の中には現金も宝石も入っておらず、あったのは古ぼけた小像があるだけ。偶然現場に現れた男を人質にして逃げ出した4人だが、金が手に入らなかったためギャングからは前金を返せと言われてしまう。ここまでならただの間抜けな泥棒のお話。ところが金庫をおそわれた側からギャングに対し、「“リトアニアの王子”を返せば身代金を払う」という連絡が入ったことから事態は急展開。ギャングは誘拐事件を知らないので、古ぼけた小像が“リトアニアの王子”だと考える。一方この動きを察知した4人組は、荒野に捨ててきた人質が莫大な金を生み出すと知って行動を開始する……。

 ストーリーは二転三転して、先読みのできない面白さ。映画の冒頭で4人組を次々に紹介して行くくだりも面白いし、そこからかっちょいいCGのタイトルが現れた時はしびれた。4人組に限らず、彼らを囲むギャングやリトアニア人たちのキャラクターもよく練られていて面白い。状況が刻々と変わっていくストーリーだが構成にも破綻がなく、ラストまでスピーディーに物語が運ばれていく。でも、僕はこの映画にちょっと不満がある。この話ならもっともっと面白くなってもいいはずなのに、いまひとつボリューム感がないのはなぜだろうか。

 1970年代風のアクション・コメディ路線を狙っていることは、演出のテンポや音楽から十分に感じられる。ところがこの映画では、出演者たちが迫力不足だ。特に主演のメルヴィル・プポーとエロディ・ブシェーズが軽すぎる。物語はこのふたりを中心にして回っているのだから、もっとドッシリとした存在感がここに欲しいのだ。エロディ・ブシェーズはフランスの若手女優の中で現在ナンバーワンの実力派だと思うし、僕もすごく好きな女優さん。ギット監督の前作『シューティング・スター』でもいい味を出していた。この女優の実力は、僕も十分すぎるほど認めている。だが演技力だけでは補えない役作りというものがあるのです。フシェーズは今回、ミス・キャスティングだったと思う。この役は、見るからに色っぽいグラマーな女優が演じてこそ、「尻軽の浮気女が最後に見せる意外な純情」が生きてくる。問題は現在のフランス映画に、「見るからに色っぽいグラマーな女優」がいないことかもね。最近のフランス映画ではブシェーズも含め、小柄な女優ばかりです。

 映画は途中で少しダレるところがありますが、それはプポーとブシェーズの希薄な存在感に起因するものだと思う。すごく面白い映画だけに、この弱点がことさら目立つのです。普通に観ていれば、気にならないことかもしれないけどね……。終盤はストーリーの面白さでぐいぐい引っ張っていくので、映画を観終わった後の満足度は高い。でも「この映画をハリウッドでリメイクしたら面白いだろうな」なんて考えてしまうのも事実です。

(原題:LES KIDNAPPEURS)


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