ノイズ

1999/11/11 GAGA試写室
宇宙から帰還した飛行士はどこか性格が変わっていた……。
飛行士の妻が夫に疑惑を抱くサスペンス映画。by K. Hattori


 原題は『宇宙飛行士の妻』という意味。宇宙で事故に遭いながらも無事生還した飛行士スペンサーは、愛着のあったNASAを退職して民間企業の重役に招かれる。彼を愛しながらも、帰還後の夫に少し違和感を感じている妻ジリアン。事故の後、夫はまるで別人のようになってしまった。口調も行動も変わったし、一番親しいジリアンに対し、事故の様子を一言も語らないのも不自然だ。夜中にひとりで起き出して、ぼんやりとラジオのノイズを聞いていることもある。いったい宇宙で何があったのか? 何がスペンサーを変えてしまったのか?

 宇宙から来た謎の生命体(意志?)が宇宙飛行士の体を乗っ取り、その夫の子供を妊娠した妻がパニックを起こすというサスペンス映画。主演はジョニー・デップとシャーリズ・セロン。監督・脚本はこれがデビュー作となるランド・ラヴィッチ。話のアイデアはユニークだが、構成が下手くそでつまらない映画になっている。宇宙から来た形のない知的生命体というアイデアは、『ヴァイラス』など先行する作品がないわけではないし、宇宙飛行士が宇宙人に意識を乗っ取られるという話も古いSF小説のアイデアだ。例えばP・K・ディックにも、同じアイデアの短編がある。この映画の着眼点の面白さは、「外宇宙からの侵略」が本当に起こっている出来事なのか、それとも精神のバランスを崩したヒロインが持つ妄想なのか、あえて曖昧にしてある点だ。

 ヒロインにはかつて鬱病を患った過去がある。夫の事故で精神的なショックを受けている。夫と同時に事故に遭ったベテラン飛行士の急死と、その妻の自殺を目の前で目撃している。夫が転職したため住み慣れたフロリダを離れ、環境の異なるニューヨークに移動した。友人たちから離れて孤独を感じている。夫は飛行士時代には見せなかった別の顔を見せはじめる。さらには妊娠、しかも双子という事態が彼女に追い打ちをかける。広くガランとした部屋の中で、彼女はどこまでも孤独だ。夫は前にもまして優しいが、でもそれは彼女が望んでいた夫ではない。彼女が知っていた夫ではない。彼女を襲う生活に対する違和感。そこに元NASA職員の男が訪ねてきて「あなたの夫は宇宙で別の意志に体を乗っ取られたのだ!」と告げる。疑惑はある仮説を得て活性化する。すべての状況証拠が、疑惑を裏付けるように思える。

 はたしてスペンサーは、本当に宇宙人に体を乗っ取られてしまったのか? そんなことは、じつはどうでもいいのです。この映画の恐怖は、ヒロインがそう思いこんでしまったことにある。この物語は、本来は心理スリラーなのです。脚本はそう読みとれる。なのになぜか脚本を自分で書いているはずの監督は、この映画をB級のSFスリラーにしてしまう。ニューラインという会社のカラーがそうさせているのか? ヒロインの心理をもっと突き詰めて行けば、この映画はヒッチコックばりのサスペンス映画になったはずなのに……。これじゃ安っぽいジョン・カーペンターです。

(原題:THE ASTRONAUT'S WIFE)


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