御法度

1999/11/08 徳間ホール
大島渚監督の最新作は司馬遼太郎原作の本格的な時代劇。
新選組内部の衆道を描いた異色作。by K. Hattori


 司馬遼太郎の「新選組血風録」を、大島渚監督が映画化した本格時代劇。しかし大島監督の映画だけに、普通の新選組ものになどなるはずもない。この映画が描いているのは、新選組を一躍有名にした池田屋事件と、幕末戊辰の戦にはさまれた短い平和な時代。京都の町はまだ騒然としているが、時代が大きく動き出すのはまだ少し先になる。嵐の前の静けさ。来るべき戦乱に備え、新選組は隊士を大幅に増強することにする。そこに現れたのが、加納惣三郎という色白の美少年だ。京都の治安維持を仕事とする武装集団は、この少年の登場で内部に小さな亀裂が入り始めるのだ。

 小説やマンガ、アニメ、歴史上の人物などを主人公にして、男性同士の「禁断の愛と性」を描いた、俗に“やおい”と呼ばれる創作分野があります。コミケなどで販売される、商業ベースには乗らない自費出版のコミックなどが多いようですが、一部は商用流通しているものもある。歴史上の人物たちで“やおい”にもっとも多く取り上げられているのは、おそらく新選組でしょう。この映画『御法度』は、大島渚が大まじめに“やおい”に取り組んだ映画だと言えるかもしれない。そもそも大島渚は、坂本龍一とデビッド・ボウイが怪しい関係になる『戦場のメリークリスマス』で世の若い男女を熱狂させた監督です。今回の『御法度』は、その延長上にある作品でしょう。主演のビートたけしや音楽の坂本龍一は、『戦場のメリークリスマス』と同じ顔ぶれです。

 池田屋騒動も鳥羽伏見の戦いもない新選組映画ですが、道場での剣術シーンや京都市中での小競り合いなど、チャンバラ場面も要所要所にちりばめられています。出演者たちはほとんどが時代劇初心者ですが、新選組の剣術は人殺し用の実戦剣法なので、剣道のような明確な型があるわけではない。全身を使って刀をぶんぶん振り回す様子はあまりスマートではありませんが、むしろそれがリアルな迫力を生み出しています。

 新選組映画では、どんな役者がどの役を演じるかがひとつの見どころになる。この映画では総長・近藤勇を映画監督の崔洋一が演じ、土方歳三をビートたけし、沖田総司を武田真治が演じている。この中で一番すごかったのは武田真治の沖田。最初にキャスティング表を見たときは「え〜、違うだろう?」と思ったのですが、映画を観るとこれがピタリとはまっていて恐いぐらい。加納惣三郎役の松田龍平や、彼に言い寄る浅野忠信も面白かったけど、何と言ってもこの映画で一番の収穫は武田真治です。この人はいつの間にこんなに上手くなったのでしょう。この薄ら笑顔がじつにヨイ。驚きました。

 気になる点はいくつもありますが、それは小さな傷です。それよりも坂上二郎の奇妙な魅力や、トミーズ雅の面白さを大いに評価したい。話そのものは血なまぐさくて陰惨なものですが、映画はじつに明るくて楽しいのです。ワダエミのデザインした新選組の新しい制服も、なかなかかっこいい。僕はもう1度観てしまいそうです。


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