ランダム・ハーツ

1999/10/15 ヤマハホール
ハリソン・フォードとクリスティン・スコット・トーマス主演の恋愛映画。
地味で長いが観るだけの価値はある映画です。by K. Hattori


 互いの家族に知られることなく、フロリダへの不倫旅行に出発した男と女。だが飛行機は悪天候のあおりを受けて墜落し、残された遺族は掛け替えのない家族の死と、生前の裏切りによって大きなショックを受ける。

 ハリソン・フォード演じる主人公ダッチ・ヴァン・デン・ブロックは、ワシントンの警察で内務捜査を担当する巡査部長。彼は飛行機事故で妻を失ったが、彼女はフロリダへの旅行を仕事関係の出張だと偽っていた。クリスティン・スコット・トーマス演じるヒロイン、ケイ・チャンドラーは、選挙を間近に控えたニュー・ハンプシャー選出の下院議員。彼女の夫はニューヨークへの出張と偽ってフロリダ行きの飛行機に乗り込み、事故に巻き込まれる。死んだふたりは乗客名簿の上で「夫婦」とされていた。この事実を知ったダッチは、妻がいつから不倫をしていたのか、自分が知らないところで彼女が浮気相手とどんな時間を過ごしたのかを調べ始める。一方ケイは夫の裏切りに心を痛めながらも、それが政治上のスキャンダルになることを恐れ、終わってしまったことをあれこれ詮索しても無意味だと考えるのだが……。

 監督は『アイズ・ワイド・シャット』に出演もしていたシドニー・ポラック。音楽は『恋に落ちて』『ザ・ファーム/法律事務所』のデイブ・グルージン。上映時間2時間12分の長尺だが、主演ふたりを中心とする芝居の密度が濃いので、あまり長いとは感じない。同じ内容を1時間40分で描くこともできるでしょうが、この映画はあえて30分追加して、コクのある味わいを作っています。これは主演のふたりに力があるからこそできることでしょう。ハリソン・フォードは言うに及ばず、クリスティン・スコット・トーマスの存在感には驚きます。『イングリッシュ・ペイシェント』『モンタナの風に抱かれて』など「不倫妻」の役が多いのですが、似た傾向の映画が続くと役柄にも深みが出てきます。他のタイプの役ができるかどうかは謎ですが、不倫妻役としては現在ナンバーワンの女優ではないでしょうか。

 ひとりはしがない警官、ひとりは名門の家に生まれた下院議員という、生まれも育ちも違う男女が、互いの配偶者の裏切りと不幸な事故という偶然によって巡り会い、やがて互いに惹かれ合って行く。この映画の中では、ふたりの主人公が属する、互いに交流することのないふたつの世界がうまく描き分けられている。内務調査を巡るサスペンス映画的な要素と、下院議員選挙の準備に追われる政治映画(選挙映画)という要素が並行して進み、最後に1点でぶつかり合う。

 ひとつひとつの芝居を長く見せて、そこにある登場人物たちの心情をあぶり出して行くスタイルは、派手好きなハリウッド映画にはない大人の感覚。安易なハッピーエンドにならない結末も、フランス映画みたいでちょっと気に入ってます。地味な映画ではありますが、ドンパチ主体のアクション映画に疲れ気味の時に見ると、少しホッとできるような佳作だと思いました。

(原題:RANDOM HEARTS)


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