BULLET BALLET
バレット・バレエ

1999/10/12 徳間ホール
恋人の死をきっかけに、死と拳銃と暴力に取り憑かれた男。
1時間半たらずの映画だがすごい迫力。by K. Hattori


 来年正月に公開される塚本晋也監督の最新作だが、映画が一応完成したのは『双生児』より前。その後、世界各地の映画祭に出品し、今回の試写直前には再編集して映画祭バージョンより10分ほど短くしたという。上映時間は1時間27分。監督・脚本・撮影監督・美術監督・照明・編集・製作・主演と、塚本晋也監督がひとりで映画製作の主要パートをすべてまかなっているため、個人の趣味や嗜好が極端に突出した作品になっている。それでいて、この映画は少しも難解ではないし、筋立てもすぐに飲み込める。エンターテインメント作品としての面白さもきちんと兼ね備えているのだ。しかし、これはやっぱり単館系の作品だろうなぁ……。画面はモノクロだし、スター俳優も出演しているわけじゃない。受け入れられる人はすんなりと受け入れて熱狂するだろうけど、ダメな人は生理的な拒絶反応を示しそうな映画だ。

 塚本監督が演じているのは、広告制作会社でディレクターをしている合田という男。10年間つき合っている恋人が、ある夜、彼のマンションでピストル自殺する。合田はそれ以来、彼女の死と、凶器となったピストルにこだわり続ける。彼女が死んだとき手にしていたのと同じ種類のピストルを、何が何でも手に入れなければならないという強迫観念。繁華街でヤクザや外国人を見つけては、ピストルを買いたいと持ちかける合田。やがて彼は、繁華街にたむろする不良少年グループに接近して行く。グループの中には、合田と同じように死に取り憑かれた少女・千里の姿があった……。

 死に取り憑かれた男と女が、生と死が肉薄するギリギリの状況まで追い込まれて救済される物語。死への一線を越えられないまま、より危険で暴力的な世界に踏み込んで行く合田。この映画は彼が恋人の死を受容するまでの物語であり、彼と千里のラブ・ストーリーでもある。

 ピストルを取り戻すために部屋を飛び出した合田が、千里と携帯電話で話ながら疾走する場面は、胸がどきどきしてくる。この一連の場面で、千里と桐子が重なり合い、千里と合田が重なり合う。電話越しに聞こえてくる息づかいと、ハミングされるサティのジムノペティ。銃口を向けられた合田が、自らの命を弾丸の前にさらけ出すように両手をゆっくりと広げて行く場面の、エロティックな高揚感。この瞬間に、合田と千里は離れていながら一体になる。ここが映画のクライマックスだ。

 千里を演じているのは、『がんばっていきまっしょい』『アドレナリンドライブ』の真野きりな。不良少年のリーダーを、BLANKEY JET CITYの中村達也が演じているが、映画初出演とは思えないすごい迫力。不良少年役の村瀬貴洋もこれがデビュー作だという。鈴木京香の出演はワンシーンだが、じつに効果的な登場。ベテランの井川比佐志が強面のヤクザ役で登場するのは、意外なキャスティングだが説得力があった。物語や個々のエピソードより、ひとつひとつのシークエンスに力のある映画。観ていてゾクゾクする場面がいくつもあります。


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