ワイルド・ワイルド・ウェスト

1999/10/07 パンテオン
ウィル・スミスとケヴィン・クライン主演の荒唐無稽な西部劇。
器も素材も立派なのに料理の腕が貧弱。by K. Hattori


 『アダムス・ファミリー』『メン・イン・ブラック』のバリー・ソネンフェルド監督が、『メン・イン・ブラック』に続いてウィル・スミスと組んだアドベンチャー西部劇。前作は『MIB』だったが、今回は『WWW』と略すのだろうか。う〜ん、インターネット時代だ。

 時は南北戦争直後。アメリカ政府の転覆を狙うマッド・サイエンティストの野望を、大統領直々の密命を受けた連邦特別捜査官たちが打ち砕く物語。出演はウィル・スミスの他に、名優ケヴィン・クラインとケネス・ブラナー。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『54』のサルマ・ハエックがヒロインを演じ、『北京のふたり』の中国美女バイ・リンがゲスト的に出演するという豪華なキャスティング。この映画は最初から「つまらないらしい」という評判を聞いていたので、最初からまるで期待していなかったのだが、まさに評判通り、期待を裏切らないつまらなさだった。これだけの役者を使い、これだけ大予算で、これだけ大掛かりな撮影をして、ここまでつまらない映画になってしまう不思議さの方が、この映画本編よりはるかに面白い。オープニング・タイトルの出だしはよかったんだけど、それだけじゃなぁ。

 こんな映画、主人公たちにさえ魅力があれば話なんてどうだっていいのに、肝心の主人公たちが魅力不足なんだから目も当てられない。若くて元気で女たらしの黒人捜査官ジエムズ・ウェストと、中年の発明狂で変装の名人でもある白人捜査官アーティマス・ゴードンのふたりが、じゃれ合っているばかりで少しも正面衝突しないのです。黒人と白人、若いのと年輩、直情実行型と策謀型、女たらしとフェミニストなど、対立項目はいくらでもあるのに、それがまったく物語の中で生きてこないのです。ケネス・ブラナーが演じるマッド・サイエンティストも、面白いのはブラナーの大げさな表情だけではしょうがないと思うけどなぁ……。これなら評判の悪かった『アベンジャーズ』の方が何十倍も面白い。バカげた物語のレベルは同じですが、『アベンジャーズ』では少なくとも主人公や敵役のキャラクターが明快だった。

 ウィル・スミスはこの映画のヒーローだし、歌って踊る以外にこれといった持ち芸もないので、これはこれで構わない。問題はケビン・クラインとケネス・ブラナーです。クラインはせっかく変装の名人という設定があり、大統領との一人二役というオイシイ場面を作っているのに、それがまったく生きていない。珍妙な発明の数々も、ウィル・スミスに意地悪するためだけじゃ意味ないよ。ケネス・ブラナーは『バットマン』におけるニコルソンと同じ路線を狙ったんだろうけど、それならもっと徹底してセルフパロディをやらなきゃ。ことあるごとに場違いなシェイクスピアの台詞を引用するとか、アイデアなんていくらだってあるじゃないか。せっかく上手な役者を集めているのに、映画がこんなデキでは情けない。

 結局この映画には、予告編以上のものがないのです。つまり、予告編と同じだけは楽しめるってことだけど。

(原題:WILD WILD WEST)


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