秘密

1999/09/20 東宝第1試写室
広末涼子主演のファンタジックで切ないラブストーリー。
観ているうちに何度か涙がこぼれた。by K. Hattori


 早稲田大学に進学した広末涼子が、大学の夏休みを使って撮った本格的な主演映画。バスの転落事故で重傷を負った母と高校生の娘。やがて母は息を引き取り、娘は意識を取り戻す。だがその時、娘の中には母親の意識が乗り移っていた……。原作は東野圭吾の同名小説。監督は滝田洋二郎。公開ギリギリまで待たされての試写でしたが、これは素晴らしい出来映え。泣けます!

 僕は広末涼子という女の子があまり好きではないし、なぜこんなに人気があるのかもよくわからない。ノドの奥に引っかかるような声は可愛くないし、しゃべり方もベタベタ甘ったるくてイライラしてしまう。彼女は私生活でも、大学になかなか登校しないまま男性タレントとの交際が発覚したりして、あまりいい印象がないのだ。しかしこの映画では、そうしたネガティブな広末イメージがすべてプラスに転換してしまう。

 今回彼女が演じている役柄は、姿は女子高生(途中から女子大生)だが中身は40過ぎの主婦(母役は岸本加世子)というもの。彼女は40過ぎのオバサンという意識を持ったまま、女子高生である娘を演じるわけです。それが広末涼子のキャラクターに似合っている。あのモタモタした喋り方も、キレのない動作も、彼女が「本当はオバサン」だと思うとしっくりくる。男性タレントとの交際の噂も、「体は処女の女子高生だが、中身はセックスを知りつくした主婦」という役とぶつけると、ぴったりとはまりすぎて恐いぐらいだ。計算してやったことではないと思うが、私生活のゴタゴタも含めて、広末涼子というキャラクターにこれほど似合う役もあるまい。広末涼子の口からセックスに関するきわどい台詞が飛び出すたびに、僕はドキドキしてしまいました。彼女はこの映画の一人二役が評価されて、日本アカデミー賞の主演女優賞を取るかも知れません。

 あまりいろいろ書いてしまうと、映画を観る楽しさが薄れてしまうので避けますが、僕がこの映画で一番泣けたのは、山谷初男演じる祖父が孫娘である広末涼子に向かって、父親に再婚話があれば祝ってやれと諭す場面でした。祖父は自分の肩をもんでいる孫娘が、じつは死んだ自分の娘だとは知りません。この場面は、父親が娘に向かって別れを告げているのです。老いた父親は娘の死をようやく受け入れる。娘は父の肩をもみながら、自分に対する別れの言葉を黙って聞いている。真相を話すことなくすれ違ってしまう気持ちの中に、死んだ娘に対する父親の愛情や、娘の父親に対する愛があふれています。僕はここで、ポロポロ涙がこぼれてしまった。

 終盤でもう1ヶ所泣いた場面があるんですが、ここは演出のうまさでしょう。「え、それは反則だろう!」と思いましたが、やはり泣かされてしまった。この後にエピローグが付きますが、そこでまた夫婦の深い愛情の余韻に触れて感動が深まって行く。最後にみせる広末涼子の曖昧な笑顔が、いつまでも忘れられなくなりそうな映画です。竹内まりあのテーマ曲もいいぞ。


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