ターザン

1999/09/20 イマジカ第1試写室
ディズニーが最新技術を使って作った現代版『ターザン』だが……。
技術面はともかく、物語はつまらないなぁ。by K. Hattori


 「予告編がすごい!」と大いに話題になったディズニーの新作アニメ。エドガー・ライス・バローズの原作はサイレント時代から50回近く映画化されているというのだが、「女ターザンもの」などの亜流映画を混ぜれば数は数倍に膨れ上がるだろう。腰に小さな毛皮をつけただけの筋骨たくましい半裸の男が、独特の叫び声をあげながらジャングルの中をツタからツタへと渡って行くイメージは、アメリカが生み出したヒーローのイコンになっている。歴代のターザン役者の中では、オリンピックの水泳選手だったジョニー・ワイズミュラーが有名。しかしこうした「ジャングルの野生児」というターザン像に、原作者のバローズは満足していなかったという。

 今回の映画は、バローズの原作にあるターザン像を忠実に映画化したというのがウリ。「俺ターザン、お前ジェーン」という天真爛漫な(悪く言えばノータリンな)ターザン像をくつがえし、たくましい肉体と繊細な心に優秀な頭脳を併せ持つ、現代流のターザンを作り出そうとしているようだ。しかし僕はここですごく気になることがある。原作のターザンは、イギリス貴族の遺児ではないのか? 今回の映画からは、ターザンの血統の秘密がすっぽりと抜け落ちている。おそらくディズニーの製作者たちは、アメリカ人のヒーローであるターザンにイギリス貴族の地位を与えて権威付けすることを好まなかったのでしょう。ジェーンはターザンの人柄に惹かれるべきであり、そこに家柄という要素が加わると不純に見えてしまうという配慮でしょう。あるいは「貴族という血筋が生み出す気品や優雅さ」というものを、アメリカ人は否定したいのかもしれない。

 原作通りと言うことなら、今から15年前に製作された映画『グレイストーク/類人猿の王者 ターザンの伝説』の方がよくできていた。主演はクリストファー・ランバート、ジェーン役はアンディ・マクドウェル、監督は『炎のランナー』のヒュー・ハドソンという文芸大作。アフリカやイギリスでたっぷりロケして、ビクトリア朝の時代の本物のアフリカ探検や博物学の雰囲気を出していた。ターザンの育ての親であるチンパンジーたちを、猿を作らせれば世界一のリック・ベイカーが製作している。これはものすごく立派な映画だった。でも、これを観たアメリカ人は「こんなのターザンじゃない!」と思ったんでしょうね。「ターザンはツタを渡らなきゃ!」「ターザンは叫ばなきゃ!」「ターザンはジェーンとジャングルの中で一緒に暮らすんだ!」と思った。でも、『グレイストーク』に対抗できるターザン映画を実写で作る根性などない。しょうがないからアニメにした。それが今回のディズニー版『ターザン』です。

 僕は今回のアニメ版を物足りなく感じました。テーマ曲や挿入歌はあってもミュージカルになっていないし、話の内容は『ジャングル大帝』だ。悪役クレイトンのデザインは、手塚アニメに出てきそうだぞ。ディープ・キャンバスを使った背景はすごいけど、それだけかな……。

(原題:TARZAN)


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