ブロークダウン・パレス

1999/09/06 FOX試写室
卒業旅行でタイを訪れた少女たちが麻薬密輸で現行犯逮捕。
過酷な試練の中でこそ友情が光り輝く。by K. Hattori


 高校の卒業旅行でタイを訪れたアリスとダーリーンは、小さな子供の頃から同じ町で育った親友同士。ふたりはゴミゴミとした雑踏や原色の看板に異国情緒を感じ、現地の安ホテルでは部屋にゴキブリが出たと言って大騒ぎ。時差ボケを昼寝で解消し、いざ町に繰り出す。そこで知り合ったのが、仕事で世界中を旅しているというオーストラリア人の青年ニック。突然現れたハンサムな男にふたりは色めきだち、異境の地でちょっとしたロマンス気分を味わうことになる。ふたりの間に生じた恋の鞘当て。だが、お楽しみはそこまでだった。ふたりは彼に誘われるまま香港に出かけようとするが、出国時に荷物の中から大量のヘロインが発見されて大騒ぎ。ふたりは身に覚えのない罪で逮捕され、英語もろくに通じない警察での取り調べと裁判で、懲役33年の刑を受けてしまう。

 ふとしたきっかけで、麻薬の運び屋に仕立て上げられてしまう観光客。この映画の製作者アダム・フィールズは、タイの刑務所に服役している15人のアメリカ人女性にインタビューし、それを映画にしようと考えた。この映画はフィクションだが、同じような身に覚えのない罪で、あるいは「大した罪にはなるまい」という気安さで長期刑を言い渡され、タイの刑務所に収容されている外国人はかなりの数に上るという。

 この映画は「海外旅行では気を付けましょう」という旅行者向けの教育映画であろうか? 映画の企画そのものはそうした場所から出発しているが、映画のテーマは違う。ここで描かれるのは、過酷な試練の中で光り輝く友情の気高さであり、困難を承知で真相を究明しようとする支援者たちの正義感だ。アメリカの田舎町からやって来た平凡な学生の中にあった油断や、刑務所の中で生まれる互いへの疑心暗鬼や嫉妬。金目当てのチンピラ弁護士が、いつしか義侠心に駆り立てられて行く様子。人間の中にある美しさや醜さが、事件を通してあぶり出されて行く。この映画の真のテーマは、表面からは見えにくい人間の複雑さだろう。主人公たちを麻薬密輸に利用したニック、彼女たちの父親、意地悪な囚人、大使館の担当者など、すべてが一筋縄ではいかない複雑な人間として描かれている。1時間41分の映画だが、最初の1時間はあっという間に過ぎてしまう。

 ただし、終盤はやや物足りない。最大の欠点は、弁護士役のビル・プルマンに怪しさや胡散臭さが足りないこと。彼が登場した瞬間「この弁護士は信用できる」と観客が思ってしまう。この役にはもう少し頼りないところや、危なっかしいところがほしい。主人公たちが次々に逃げ道を失っていく構成はよくできているが、ここは演出がやや平板で、ほのかに見えた希望の光が目の前でもみ消されてしまうような絶望感が伝わってこない。こうした絶望がもっと切実に描かれれば、最後に見える「希望」はもっと感動的だったろうに。脚本はよく練られているが、登場人物たちの体臭や異郷の空気が感じられない映画だった。あとほんの少しで傑作になれたのに……。

(原題:BROKEDOWN PALACE)


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