シュウシュウの季節

1999/08/11 メディアボックス試写室
文革期の中国。下放政策で辺境に移り住んだ少女の悲劇。
悲惨すぎて涙も出ない。ゲンナリする。by K. Hattori


 1966年から10年近く続いた中国の「プロレタリア文化大革命」は、中国の政治と経済と社会に多大な混乱をもたらした。当時の日本では中国ブームが起き、文革礼賛論がマスコミを賑わしていた。毛沢東語録は、日本でもベストセラーになった。その後もニクソンが訪中したり、田中首相が日中国交回復を実現したり、それを記念して上野動物園にパンダが贈られたりした。当時の日本人は、文革の実態を何も知らされていなかった。大新聞の中国特派員は、「日中友好の妨げになる」という理由で、中国の正確なニュースを流さなかった。日本でも大絶賛された文化大革命の中で、実際には数百万から数千万の人たちが命を落としたという。

 この『シュウシュウの季節』は、文革末期に下放政策で農村移住した少女の悲惨な運命を描いたドラマ。主人公シュウシュウは両親のもとを離れ、友人たちと一緒に勇んで辺境の町に出かけて行く。健気に働く少女たち。シュウシュウは隊長の命令で、さらに奥地の遊牧民のテントに向かう。一緒に生活するのは、ラオジンというチベット人の中年男。無骨だが優しい男だ。慣れない手つきでラオジンの仕事を手伝い、やがて半年が過ぎる。故郷に戻る約束の日。だがシュウシュウが町を離れている間に文革の熱気は収まり、彼女は親元に帰れないまま大平原のテントに取り残されてしまう。お金かコネがない限り、帰郷に必要な許可証は手に入らないという。シュウシュウは許可証を手に入れられるという行商人の男と親しくなったのだが……。

 映画の前半は面白かった。主人公シュウシュウと、同じ学校に通う少年の淡い恋。父母との交流。町を離れて行くトラックから、手を振る家族を見送る視線。やがて画面には雄大な大自然が映し出される。無骨な遊牧民の男との交流。時間はあっという間に過ぎて行く。だが映画の後半は悲惨すぎて見るも無惨だ。帰郷のための許可証をちらつかせる町の男たちからオモチャにされ、やがて自暴自棄になって行くシュウシュウが気の毒でしょうがない。何の罪もない少女が、なぜこんなにもひどい目に遭わなければならないのか……。正直言って、僕はひどく不愉快な気持ちになってしまった。これは単なる残酷ショーではないか。

 主人公の悲劇を描くのは構わないし、彼女が男たちによって徹底的に汚されていくのも、映画のためなら構わない。でもなぜ彼女はそうせざるを得なかったのかという部分が、この映画ではボンヤリとしか描かれていない。ラオジンがシュウシュウの窮状を救えなかった理由も、わからなくはないが釈然としないのだ。この映画は「政治の悲劇」を描いているわけではない。主人公が悲惨な目に遭うのは、政治の季節が通り過ぎた後なのだ。それではこの映画は、悲劇の原因を何だと考えているのだろう。僕はそれがさっぱりわからなかった。

 女優ジョアン・チェンの監督デビュー作。シュウシュウ役のルールーが素晴らしい演技を見せている。

(原題:天浴/XIU XIU : The Sent-Down Girl)


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