大いなる神秘
(二部作)

1999/08/06 TCC試写室
インドを舞台にしたフリッツ・ラング監督の冒険活劇映画。
風俗考証のデタラメさも含めて楽しめる。by K. Hattori


 フリッツ・ラング監督が1958年に撮った「インド映画」。この映画には、恋と冒険と陰謀があり、友情と裏切りと憎しみがあり、誘拐とクーデターがあり、出生の秘密と神秘的宗教があり、ラクダとトラが大活躍し、もちろん歌と踊りもある。第1部『王城の掟』、第2部『情炎の砂漠』をあわせ、3時間18分という超大作。

 「インド映画」と言っても、これは「インドを舞台にした映画」という意味で、インド製作の映画というわけではない。この映画は西ドイツ、フランス、イタリアの合作で、登場するインドは欧米人の目から見たエキゾチックな国というイメージで統一されている。我々が本物のインド映画で知っているインドではなく、当時のヨーロッパ人たちが思い描いていたステレオタイプのインド像。もちろんそこには綿密な風俗考証などあるはずもなく、漠然と頭に浮かぶ「インド」のイメージだけが幕の内弁当のようにギッシリと詰まっているだけだ。最初にジャングルが登場するのは、キプリングの小説「ジャングル・ブック」のイメージだろうか。この映画に登場するインドは、非欧米的なイメージの集大成。インド人がイスラム教だろうがヒンズー教だろうが仏教だろうが、そんなことは知ったことではない。要は「欧米的なキリスト教社会」「近代的な民主主義国」でさえなければそれで構わないのだろう。

 主人公はドイツ人の建築技師ハリー。インドの王国エシュナプールを訪れた彼は、イギリス人の父とインド人の母との間に生まれた踊り子シータと恋に落ちる。だが彼女は、エシュナプールのマハラジャが自分の妃にするため呼び寄せた女だった。ハリーとシータの密会はマハラジャの知るところとなり、ふたりは命がけで王国を脱出しようとするのだが……。その頃王国内部では、マハラジャの義兄によるクーデター計画が持ち上がっていた。

 物語そのものは古風な冒険活劇。ヨーロッパ人の男が、未開で野蛮な国に迷い込み、囚われのお姫様を救い出すというお話だ。話が古風なのも当然で、この映画の原作は1920年代に書かれたものなのだ。原作者のテア・フォン・ハルボウとフリッツ・ラング本人が最初に脚本を書いたが、それは他人に監督されてしまった。その後も1度リメイクされ、この映画が3度目の映画化。フリッツ・ラングの手を放れた映画が、30年以上もたって再び彼の手元に戻ってきたわけだ。

 現在の視点で見ると、この映画のインドに対する視線は多分に差別的だったりするのだが、これはある程度しょうがないのかも。ルーカスとスピルバーグも、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で同じようなことをやっているしね。インドは欧米人にとって、どうしようもなく「神秘の国」なんです。

 映画の中で最大の見どころは、踊り子シータのセクシーなダンス。第1部と第2部にそれぞれ1回ずつダンス場面があるが、第2部の衣装はすごいぞ!

(原題:Dir Tiger Von Eschnapur / Das Indische Grabmal)


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