ヴァーチャル・シャドー
幻影特攻

1999/08/03 シネカノン試写室
香港の若手スター3人が出演したアクション映画だが……。
センチメンタルに流れて活劇が不発。by K. Hattori


 『欲望の街/古惑仔』シリーズのイーキン・チェン、同シリーズの他『キッチン』『BE MY BOY』などで知られる小春ことチャン・シウチョン、『世界の涯てに』『アンナ・マデリーナ』のケリー・チャンが主演したアクション巨編。同じ孤児院で育った3人の若者たちの友情が、テロリストの襲撃や組織の非情さによって断ち切られていく様子を、少しセンチメンタルに描いている。

 主人公たちはアメリカCIAの研究者。薬物、サブリミナル効果、ヴァーチャル・リアリティ技術などを使って、最強の兵士(VR)を作る研究をしている。だが同じ技術を大衆操作に利用すれば、莫大な富を手に入れることも可能だ。3人には常に厳重な護衛が付いているが、仲間のひとりCSの結婚式がテロリストに襲われ、CSの婚約者は殺され、研究者の紅一点ブルーは誘拐されてしまった。ブルーの恋人でもあったタンゴと、殺された婚約者の復讐を誓うCSは、自らが研究の実験台となって最強の兵士に変身し、テロリストたちの本拠地に乗り込んでいく。だがVRには意外な副作用があった……。

 小さい頃から幼なじみだった3人が、そろいもそろってCIAの研究員になるという設定そのものには目をつぶってもいい。しかし物語の構成に難があることには、目をつぶるわけに行かない。この映画では、物語の中心にいる3人の人物が死んでしまう。死ぬこと自体は一向に構わないのだが、それによって物語の進行にブレーキがかかり、しかも、進んで行く方向まで変わってしまうのは問題だろう。この映画の中では、後から現れる死が、その前に描かれている死を無効にしてしまう。CSの婚約者が殺されたことによって、CSの復讐には強い動機付けができた。しかしその後ブルーが死ぬことによって、CSの動機からは婚約者が消えてしまう。こうした過去の切り捨ては、タンゴの場合に特に顕著だ。

 この映画は香港で大ヒットしたそうだが、これは映画の面白さより、若手スター3人の顔合わせの吸引力によるものだろう。ドラマは要所要所で腰が折れて一貫性に欠けるし、アクションシーンも湿りがちだ。主人公たちが何の目的でどんな研究をしているのか、その研究がテロリストたちの計画とどう関わってくるかなど、最初の設定もあまり練られていないと思う。誘拐されたブルーが洗脳されることなく、すんなりと解放されてしまったのもなぁ。彼女がテロリストたちの洗脳によって空港で暴れ出し、CSが反射的に撃ち返したという話にした方がよかったと思うけど……。

 映画の終盤は洗脳で記憶を失ったタンゴと、VR化の副作用で凶暴化する自分を抑えきれないCSの一騎打ち。だがすべてが終わった後になっても、タンゴは自分が失った物の大きさを感じることすらできない。こうしたラストシーンのほろ苦さは嫌いじゃないけど、このオチに持ってくるなら、タンゴのブルーへの気持ちや、CSへの友情と憎しみの深さなどを、より克明に描いておく必要があると思うけどなぁ……。物足りない映画です。

(原題:幻影特攻 HOT WAR)


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