M/OTHER

1999/07/28 映画美学校試写室
カンヌ映画祭で国際批評家連盟商を受賞した諏訪敦彦監督作。
あるカップルの関係が子供の登場で崩壊する。by K. Hattori


 今年のカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した、諏訪敦彦監督の新作。諏訪監督は前作『2/デュオ』も国内外で高い評価を得ているが、個人的には今回の作品の方が身近で親しみが感じられた。映画を観ている時、「こんなことってあるよなぁ」「こんなことってあったなぁ」と感慨にふけり、登場するエピソードや台詞のやりとりにいちいち納得できてしまって、じつは意外性がなかったりするぐらいです。この映画の中には、登場人物同士の決定的な葛藤や衝突は描かれない。そこがすごくリアルなのです。人間は弱い存在なので、目の前にある問題の本質から目を背けたり、苦しい葛藤から逃れようとしたりする。そうした人間像が、この映画ではじつにうまく描けていると思いました。

 登場人物は45歳でバツイチのレストラン経営者・織田哲郎と、彼と同棲している29歳のデザイナー、松野アキのふたり。哲郎の子供(俊介・8歳)は妻が引き取っていて、彼は定期的に子供と面会できる取り決めです。ところがある日、哲郎の元妻が交通事故で入院し、退院までの1ヶ月ほど、彼が子供を預かることになってしまう。予告なしに子供を連れてきた哲郎に対し、「相談してほしかった」と言うアキ。「迷惑かけるかもしれないけど、なるべくフォローするからさ。黙って連れてきたのは謝ります。ごめんなさい」と頭を下げる哲郎に対し、アキはそれ以上何も言えなくなってしまう。

 同棲中のカップルのもとに男の子供が転がり込み、それがきっかけでカップルの間にあった一定の調和が壊れていく物語ですが、この子供は関係の変化を促進する触媒であって、関係が壊れる本質的な原因ではない。同棲しているとはいえ、哲郎もアキも互いのことをすべて知っているわけではない。そもそも、自分が何を考えているのか、何を求めているのかさえわからないのが人間です。子供が生活に侵入してきたことで、今まで知らなかった相手の姿や、今まで知らなかった自分自身の姿に気付いてしまうふたり。特にアキは、こうした変化に対して非常に敏感になる。それまで自然に培ってきた自分と哲郎の関係が、非常にもろい基盤しか持っていないことを痛感する。それに対して、哲郎は意図してなのか意図することなしになのか、非常に鈍感です。

 映画評であまり個人的なことを書くのもナンですが、この映画を観ると、どうしたって「自分の生活」と比べてしまう。僕は三浦友和が演じている哲郎よりも、渡辺真起子扮するアキの心情に同情してしまった。家の中でどんどん自分の居場所がなくなっていく感覚が、僕にはすごく理解できてしまうのです。もちろん哲郎の行動も理解できる。僕も同じような言動をすることがありますからね。でも、僕はアキ派だな。理由を書くには私生活の暴露が必要なので、やめときますけど……。

 「愛し合う者同士が共同生活する」という結婚にせよ同棲にせよ、それはどこかで経済面や生活面で互いに依存し会う「共生関係」になってしまう。難しいよな。


ホームページ
ホームページへ