ハイロー・カントリー

1999/07/07 メディアボックス試写室
ペキンパーが映画化を望んだ原作をスティーブン・フリアーズが映画化。
風景は最高だが人間ドラマはもっと整理してほしい。by K. Hattori


 『ワイルドバンチ』のサム・ペキンパーが映画化を果たせなかった幻の企画を、マーティン・スコセッシ製作、スティーヴン・フリアーズ監督で映画化した作品。原作は1961年に出版されたマックス・エヴァンズの同名小説。エヴァンズはペキンパー監督と個人的にも親しく、『ケーブルホーグのバラード(砂漠の流れ者)』には出演もしているという。映画化の話は原作出版直後からあったものの、結局これをペキンパーが映画化することはできなかった。今回の映画を観て、「これをペキンパーが映画化していたらどうなっていたか?」と思わず考えずにはいられない。これは西部で生きる、時代遅れな男たちの友情物語。いかにもペキンパー好みの題材です。

 物語は第二次大戦直前、ニューメキシコ州ハイ・ローの町ではじまる。ふとしたきっかけで親友同士になった、主人公ピートとビッグ・ボーイ。ビッグ・ボーイは乗馬の名人で、牛のあしらいもうまい根っからのカウボーイ。腕っ節が強くて度胸もあり、女にももてる男の中の男だ。ピートとビッグボーイ、彼の弟リトル・ボーイの3人の友情は永久に続くかに思えた。だが間もなく第二次大戦が勃発。ピートとビッグ・ボーイは戦争に行き、リトル・ボーイが留守の家を守った。数年後、ピートとビッグ・ボーイが故郷に戻ってみると、そこは戦前の牧歌的カウボーイにとっては厳しい現実が待っていた。主人公たちが戦場で戦っている間に、ハイ・ローの牧場はジム・エドによる買い占めが進み、自前の小さな牧場を持っていたカウボーイたちは破産寸前なのだ。戦争で牧場経営のスタイルが変わり、広大な牧場で大規模生産をしなければ利潤が出なくなってしまったのだ。

 ジム・エドと昔ながらのカウボーイたちの対立、ピートとビッグ・ボーイの友情、ジム・エドの部下になったリトル・ボーイと兄ビッグ・ボーイの確執や、ジム・エドの部下レスの妻モナをめぐるビッグ・ボーイとピートの三角関係など、エピソードの処理が難しい話だと思う。原作がどうなっているのか知らないが、この映画ではこうしたエピソードのどれが中心になっているのかわかりにくく、最後までノレなかった。これは脚本が悪いのか、それとも演出が悪いのか、僕にはわからない。フリアーズ監督が決して下手な演出家ではないことを考えると、これは脚本が悪いのかもしれない。ピートの恋人ジョセファなんていかにも扱いが中途半端だし、ピートたちの共同経営者フーヴァーのキャラクターもわかりにくいし、リトル・ボーイの心情にも同情しがたい部分がある。脚本でもっと整理できる部分があると思うのだが。

 ビッグ・ボーイを演じているのはウディ・ハレルソン。ピート役はビリー・クラダップ。謎めいたモナを演じたパトリシア・アークエットは僕のひいき女優だが、今回はあまり精彩がなかった。こうしたヴァンプタイプは、彼女の柄じゃないんです。どっちかというと、彼女は庶民派の隣のお姉さんタイプですからね。男を翻弄して狂わせる女性には、ちょっと見えないと思うけど。

(原題:THE HI-LO COUNTRY)


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