I love ペッカー

1999/07/07 徳間ホール
ボルチモアのカメラ小僧がニューヨークのアートシーンに旋風を巻き起こす。
なぜかR-15指定になったジョン・ウォーターズの最新作。by K. Hattori


 『ピンク・フラミンゴ』のジョン・ウォーターズ監督最新作は、監督の故郷ボルチモアを舞台にしたコメディ映画。バーガー屋で働いているペッカーは、中古のオンボロ・カメラで写真を撮るのが趣味。被写体は彼の周囲にある、ありとあらゆる物や人だ。道を歩いていれば通りすがりの人をパチリ。バスに乗れば隣の席のお姉さんたちをパチリ。コインランドリーで働くガールフレンドをパチリ。バイト先では鉄板の上で焦げ付き始めたバーガーをパチリ。ゴミ箱をあけてパチリ。壁の落書きをパチリ。もちろん家でもパチリパチリ。撮り貯めた写真を集めてバーガー屋で写真展を開いたことから、ペッカーの人生が大きく変化する。偶然町に来ていたニューヨークの美術ディーラーが、ペッカーの写真に目を付けたのだ。ニューヨークで開かれたペッカーの個展は、アートシーンにセンセーションを呼び起こし、ボルチモアのカメラ小僧ペッカーは一躍有名人になる。

 主人公ペッカーを演じているのは、『ターミネーター2』のエドワード・ファーロング。ガールフレンドのシェリーを演じているのは『バッファロー'66』でもヒロインを演じているクリスティーナ・リッチ。彼女や最近のドリュー・バリモアを見ると、アメリカでは太めの若い女優に人気があるように思えてしまう。でも他にあまり似た体型を思いつかないから、たぶん例外なんでしょうね。ニューヨークの美術ディーラーを演じているのはリリ・テイラー。ペッカーの母役はメアリー・ケイ・プレイス。配役はかなり豪華です。つい最近、映画監督デビュー作『オフィス・キラー』を作ったシンディ・シャーマンも、本人の役で出演しています。

 この映画を現代アート批判と受け止める人も多いだろうけど、僕はそうは思わなかった。現代写真の世界を描いた『ハイ・アート』という映画でもわかるとおり、ペッカーが撮っているようなプラベート・フォトは実際に流行しているし、この映画ではペッカーの作品をプロの写真家が撮っている。ペッカーの写真は十分に魅力的なのです。これを現代アート批判として描くなら、ペッカーの写真はもっとデタラメな物の方がいいし、美術ディーラーと客の奇妙な関係を皮肉ったり、個展のオープニングを茶化す方法もあったはずなのです。(最後に全盲の写真家というのが登場するけど、これも実際にそういう人っているんですよ。全盲のイラストレーターもいる。美術の世界はまか不思議です。)

 僕はこの映画を、ジョン・ウォーターズの“ボルチモア讃歌”として受け止めた。ペッカーの写真を物珍しげにながめていたニューヨークの美術業界人が、ペッカーの招きで全員ボルチモアに集合するラストシーンの幸福感ったらない。ここではボルチモアの風変わりな住民たちが、ニューヨークで時代の最先端を生きる人々と同列に扱われている。ペッカーの力でニューヨークとボルチモアはひとつに融合し、ペッカーの店はニューヨーク人たちの聖地になる。ボルチモア万歳です。

(原題:PECKER)


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