ワイト島1970

1999/06/28 シネカノン試写室
1970年8月にワイト島で開催されたロック・フェスティバルの記録映画。
「愛と平和」のかけ声がクソとゴミの山になる4日間。by K. Hattori


 1969年8月に開かれ、今では「愛と平和と音楽の祭典」として伝説になっているウッドストックの翌年、「ウッドストックの熱気よ再び!」と意気込んで開催されたのが、イギリス・ワイト島のロック・フェスティバルだった。ウッドストックが3日間で40万人の観客を集めたのに対し、ワイト島では4日間で60万人の観客を集めたという。しかし主催者側のもくろみとは裏腹に、このコンサート・イベントは混乱と膨大な赤字とゴミの山を生み出しただけだった。この映画は、当時一世を風靡した「愛と平和」というスローガンの空虚さを伝える、迫真のドキュメンタリーだ。コンサートの場面も面白いが、それよりもスタッフと観客、出演アーティストの駆け引きがスリリング。当時の“時代の雰囲気”がこれほどリアルに伝わって来る映画は滅多にないと思う。既にビデオでも発売されているが、音楽映画としてより、一種の風俗ドキュメンタリーとして貴重なものだと思う。

 この映画が撮られた当時は、ロックという音楽が商業主義とは無縁であるという幻想を、観客の多くが持っていた。「愛と平和」を訴えるコンサートで入場料を取るなんてことは馬鹿げているし、厳しい入場制限をしたり、客席を塀で囲ったり、制服の警備員たちにガードさせる主催者側の態度は愚かなことだった。世の中にはお金では買えない大切なものがたくさんあり、それを象徴しているのがロックだった。ロックは反体制であり、いかなる制度や拘束からも自由であるべきだった。常識的に考えれば、こんな幻想が馬鹿馬鹿しいことは誰にだってわかる。会場や設備を借りるのにも、アーティストを招くのにも金はかかるのだから、コンサートが無料で運営されることなどあり得ない。しかし数十万の大群衆は、「愛と平和」を口々に叫びながらコンサートの枠組みを破壊する。入場料を払うことなく会場になだれ込み、観客の入れ替えを拒否して「俺たちを追い出そうとしたら暴動が起きるぞ」とスタッフを恫喝する。「愛と平和」が聞いてあきれる、単なる暴徒の群なのです。

 コンサートのスタッフは結局観客を制御しきれず、会場は騒然としてくる。あまりのマナーの悪さに、演奏中のクリス・クリストファーソンは怒って帰ってしまうし、観客に乱入されたジョニ・ミッチェルは演奏しながら泣き出してしまう。もう無茶苦茶です。

 このイベントが瓦解してしまったのは、結局スタッフ側にも出演者側にも、商業主義を罪悪視する気分が残っていたからだと思う。ひどいのはアーティストたち本人で、彼らは主催者たちからしっかり金を受け取りながら、ステージでは観客を扇動して「塀なんて壊してしまえ」「僕たちは若者たちの味方です」と言う。アーティストは自分の持ち時間が終われば金を握って帰ってしまうのだから、好きなことが言える。観客あっての商売だから、口当たりのいい言葉で観客におもねるし媚びる。そんな出演者たちの様子を舞台そででながめながら、徐々に主催者たちの顔色が青ざめていく。これは面白すぎます。

(原題:MESSAGE TO LOVE / ISLE OF WIGHT MUSIC FESTIVAL 1970)


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