マトリックス

1999/06/24 パンテオン
サイバーパンクSFと香港カンフー映画がドッキングした超大作。
『バウンド』のウォシャウスキー兄弟最新作。by K. Hattori


 2年前に公開されたウォシャウスキー兄弟のデビュー作『バウンド』にしびれ、「次はワーナーでSF大作を撮るらしい」と聞いたときから待ちこがれ、今年の3月にワーナーの試写室で予告編を観た瞬間にノックアウトされ、3月末のアメリカ公開直後から続々と届けられる絶賛の評を聞きながら身悶えしていた映画『マトリックス』をついに観た。3年越しの期待が高まっていただけに、実際の映画を観て、よい意味でも悪い意味でも「なんじゃこりゃ!」と思ってしまったぞ。サイバーパンクSFと香港アクションが同居している奇妙な作品で、伝統的なハリウッド型の作劇術と香港アクション・ムービーが、まったく融合していないところが面白い。この「ツギハギ感覚」が、サイバーパンクなのかもしれない。

 最近のハリウッドは香港映画が大好きで、香港から監督や俳優を招いて、ハリウッドで香港映画的なものを作ろうと模索している。その結果が一連のジャン=クロード・ヴァン・ダム作品やジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』であり、ジェット・リー出演の『リーサル・ウェポン4』であり、ジャッキー・チェン主演の『ラッシュ・アワー』として現れている。しかしこうした映画の中で、香港映画の持っていた荒唐無稽なアクションの神髄は再現されているだろうか。おそらくそれに対しては、誰もが「否」と答えるに違いない。香港で完成したワイヤーワーク・アクションは、伝統的なハリウッド型のアクションとうまくつながらないのだ。香港映画の中でならジェット・リーが5メートルや10メートルの距離をジャンプしても不自然ではないが、それをメル・ギブソンの前では演じられないのです。これはもったいない。

 『マトリックス』ではそうした制約を取り去るために、バーチャル・リアリティーというアイデアを持ち出した。この世はすべてコンピュータの中にあるバーチャルな世界であり、その事に気付いて(目覚めて)特殊な訓練を積んだ人間たちは、通常の物理法則を無視して飛んだり跳ねたりできる。この設定を考えついたことで、キアヌ・リーブスがジェット・リーばりのアクションを演じられるベースができたのです。この映画では、香港流のアクションが最初から「異物」として描かれている。通常のアクションとつながる必要がなくなったことで、アクションがどれだけ過激になっても不自然さを感じなくなっている。アクション場面の演出を担当したユアン・ウー・ピン(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』のアクション監督)の肩書きが「カンフー・コレオグラファー」になっていることが、それを如実に物語っています。

 上映時間2時間16分。話はひたすら荒唐無稽で馬鹿馬鹿しく、「それがどうした!」と叫びたくなるような底抜けぶり。映画のスッカラカンぶりが逆に爽快ですらある。スタイリッシュなアクション・シーンはやはり格好よくて、たぶん僕はこの映画をまた観てしまうと思う。パート2を作るらしいが、今からすごく楽しみだ。

(原題:THE MATRIX)


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