お受験
OJUKEN

1999/06/21 松竹試写室
矢沢永吉と田中裕子が我が子の小学校受験に熱中するコメディ。
滝田洋二郎と一色伸幸の黄金コンビが復活。by K. Hattori


 缶コーヒーのCMや、「アリよさらば」「時よ、止まれ」などのドラマに主演したこともある、矢沢永吉の映画初主演作品。小学校受験に熱中する両親と娘の奮闘ぶりを、リストラされたサラリーマンの悲哀をからめながら描くホームドラマだ。監督の滝田洋二郎と脚本の一色伸幸は、『木村家の人々』『病院へ行こう』『僕らはみんな生きている』などの黄金コンビ。今回は『熱帯楽園倶楽部』以来、5年ぶりのコンビ復活になる。最近の一色伸幸は、『ショムニ』など冴えない仕事ばかりだったのですが、今回は往年のパワーがよみがえった印象。序盤から終盤まで、ワクワクドキドキするドラマの面白さを十分に味わえます。ただし最後のオチが、僕にはよくわからなかった。もちろん話としてはわかるのですが、主人公がなぜそのような行動をとったのかに釈然としないのです。主人公の行動を応援し、その選択に迷うことなく拍手喝采できる作りになっていると、もっとよかったと思うんだけど……。残念ながらそれはなかった。

 小さな頃から走ることだけしか能がなく、就職してからも実業団のマラソン選手として活躍してきた主人公・富樫真澄。不況のあおりで会社にリストラの嵐が吹き荒れる中、彼は子会社の役員として出向する異例の出世をするが、その直後に子会社は倒産。ていのいい二段階リストラで、主人公は退職金ももらえぬまま会社から放り出される。娘の小学校受験は目前。父親の職業が「会社役員」になったと、妻は大喜びをしている。主人公は妻に本当のことが言えない……。これではまるで、山田洋次の『学校III』のような展開ではないか。物語がどこか、間違った方向に進んでいる気配が濃厚になります。しかし、塾の模擬面接で職業を聞かれた主人公が、ポツリと「無職です」と答えた瞬間に事態は一変する……。

 この映画では、夫のリストラという厳しい状況の中で、子供の受験が一家の絆を強め、家族を再生させて行く。主人公が専業主夫になり、妻が外で働くという展開も『ミスター・マム』のようで楽しい。慣れない家事に、主人公が意外な才能を発揮する様子は痛快です。

 少子化で過熱しがちな教育熱については、様々な問題点があるはずです。この映画はそうした問題を素通りしてしまう点が、少し弱い。家計の中で肥大する教育費についても、見事に何も描かれていない。受験の目的については、富樫の妻が「もし受かれば子供の目の前には安泰のレールが敷かれる」と説明していますが、いい学校を出たからと言って一生安泰に暮らせるほど、今の世の中は甘くないでしょう。世の中に絶対なんてない。会社は終身雇用じゃなくなっている。主人公が会社をクビになったことで、「一度勝てばあとは安泰」という前提は崩れてしまったはずなのです。

 しかし映画はそうした現実から目を背けたまま、子供の受験をひたすら自己目的化してしまう。一種のゲームとしてそれは楽しそうにも見えますが、その裏側では数十万、数百万というお金が動いているのです。


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