リトル・ヴォイス

1999/06/18 徳間ホール
『ブラス!』のマーク・ハーマン監督の最新作はミュージカル?
マイケル・ケインの素晴らしい熱唱が聴ける。by K. Hattori


 イギリスで大ヒットしたミュージカル『The Rise and Fall of Little Voice』を、『ブラス!』のマーク・ハーマン監督が映画化。父親の死から周囲に心を閉ざしている女性が、父の残したレコードを正確に物まねすることで一夜のスターになり、母親から自立する物語。主人公のLV(エルヴィ)ことリトル・ヴォイスを演じているのは、舞台でも同じ役を演じていたジェイン・ホロックス。彼女にほのかな想いを寄せるビリーを『スター・ウォーズ/エピソード1』のユアン・マクレガーが演じ、『秘密と嘘』のブレンダ・ブレシンが母親役、名優マイケル・ケインがLVの才能に目を付けるレイ・セイという三流芸能プロモーターを演じている。

 僕はミュージカル映画が大好きなので、この映画には大いに期待していた。しかも使われている曲がジュディ・ガーランドやマリリン・モンローで、主人公がそれらを力強く熱唱する場面がクライマックスとあっては、この映画は絶対に好きになってしまう映画のはず。しかし残念ながら、世の中に「絶対」などないということを、今回も思い知らされる結果になってしまった。

 無口で周囲と正常なコミュニケーションができない女性が、歌を歌うとスゴイ、……というのがこの物語のキーポイントなのですが、僕は彼女が才能を見いだされる場面で歌うジュディ・ガーランドの物まねが、そんなに似ているとは思わなかった。この場面で歌われているのは『スタア誕生』のテーマ曲「ザ・マン・ザット・ガット・アウェイ」と、『オズの魔法使』のテーマ曲「虹の彼方に」ですが、ジュディのボーカルに特有の、少し鼻にかかりながらシャウトしていく力強さがジェイン・ホロックスの声にはないのです。ホロックスの歌は確かにうまいのですが、その歌声はジュディのそれとは根本的に異なったものだと思う。そう感じてしまうと、この場面でレイ・セイや劇場支配人のミスター・ブーが「ジュディにそっくりだ!」と驚く場面で白けてしまう。もっとも、ショーの場面で彼女が歌う「ゲット・ハッピー」は、かなりジュディに似ていると思うけど……。

 映画で最大の見どころはやはりジェイン・ホロックスが吹替なしで演じる「そっくりショー」の部分で、その後のエピソードはいわばオチを付けるためのオマケだと思う。ところが映画では「主人公の自立」を描くために、舞台での大成功の後にある母親やマネージャーへの反逆をクライマックスに持ってきてしまった。これではショーの場面で盛り上がった気持ちが萎えてしまう。ここはもう少し短く切りつめた方が、前夜の大成功との対比も明確になっただろう。

 この映画でアカデミー賞候補になったブレンダ・ブレシンの演技は非常にリアルだったが、このリアルさが物語のファンタジックな要素を艶消しにしていた面もある。むしろ驚嘆すべきは、マイケル・ケインの芝居だろう。絵に描いたような「怪しい男」の姿はユーモアたっぷり。「ゴールド・フィンガー」には大いに笑った。

(原題:Little Voice)


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