ポリー・マグーお前は誰だ?

1999/06/16 徳間ホール
ウィリアム・クラインの監督デビュー作はオシャレでカッコイイ!
ファッション業界を舞台にしたコメディ。by K. Hattori


 写真家ウィリアム・クラインが1966年に作った、映画監督デビュー作。当時ヴォーグでファッション写真を担当していたクラインにとって、この映画に描かれるモデルの世界は身近なものだった。しかし彼はその世界を、思いっきりシャレのめし、ちゃかしまくり、奇抜に変形させていく。主人公はアメリカ出身の世界的な人気モデルのポリー・マグーと、雑誌グラビアの彼女に恋してしまった某国皇太子、彼女を取材しているテレビ局の男性スタッフの3人。皇太子はポリーに恋いこがれて、いつもため息ばかりついている。それを見た女王は侍従に命じて、パリにいるポリーを皇太子妃として迎えるよう命じるのだが、使者の大任を得たふたり組の男がとんでもない間抜けで、コトはすんなり運ばない。一方、テレビ局の人物ドキュメント「お前は誰だ?」でポリーを取材していた男は、「人気稼業の醜い裏側を描け!」という上司の命令に渋々従いつつ、ポリーを守れる男は自分しかいないという妄想にとりつかれる。

 映画の筋立てそのものは、じつに他愛のないものです。しかしそこに三者三様の「妄想」が入り込んで、映画全体をふくらませている。この映画では現実のシーンより、妄想場面の方が多いのです。1時間41分の映画で、たぶん1時間ぐらいは妄想だと思う。皇太子はポリーを妃として迎えることを想像してニヤニヤ笑い、テレビ局員は彼女を自分の家族に引き合わせる場面を想像してニタつく。妄想は新たな妄想を引き起こして自己増殖し、どんどん荒唐無稽なものへと進化して行くのだ。皇太子はポリーと一緒にパリの空を飛び回り、タップを踏んでダンスを踊る。恋する男の妄想は限りないのです。

 この映画では、ふたりの男に愛されるポリー本人の内面がほとんど描かれていません。アメリカ出身の出っ歯でそばかすだらけの女の子が、どういうわけかモデルの仕事で大成功する。ファッションショーはもちろん、雑誌のグラビアやテレビCMで、彼女はモテモテの引っ張りだこ。でもそうした人気には、どんな根拠も理由もない。ただ「ポリーは人気者」という事実だけがそこにある。この映画ではそんなポリーを「実体のない虚像」として描くのではなく、間違いなくそこに存在しているひとりの女性として描いている点がユニーク。だが人気と彼女本人との間には、ギャップがある。そもそも、人気のほどもどれだけのものなのかは怪しい。街を歩く人たちの多くは、彼女の顔も名前も知らないのですから……。

 どの場面にもビジュアル面での工夫があって、実験映像のような面白さがある。ストライプのドレスを着たモデルたちがズラリと並び、他愛のないおしゃべりに興じるという場面ひとつをとっても、はっと息を呑むような鮮烈さ。ストップモーションの上に落書きしたり、写真を使ったアニメーションを見せたりと、表現の上ではまさにやりたい放題。それがストーリーと奇妙にかみ合っている不思議さ。最後のオチも「なんじゃそりゃ!」という人を食ったもの。じつに楽しい映画でした。

(原題:QUI ETES-VOUS POLLY MAGGOO?)


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