双生児
GEMINI

1999/06/15 東宝第1試写室
江戸川乱歩の原作を塚本晋也監督が大胆に映画化。
メイクやコスチュームも恐い心理サスペンス。by K. Hattori


 新作『バレット・バレエ』の公開が来年に控えている、塚本晋也監督の最新作。今年の6月4日に完成したばかりという、出来立てホヤホヤの映画だ。原作は江戸川乱歩の「双生児〜ある死刑囚が教誨師にうちあけた話」だが、映画化に際してはかなり自由に脚色しているという。出演は本木雅弘とりょう。本木雅弘と乱歩というと、松竹で奥山和由プロデューサーが製作した『RAMPO』があった。あの映画では本木が明智小五郎を演じ、竹中直人が乱歩本人を演じていたが、今回の『双生児』にも竹中直人が少しだけゲスト出演しているのだった……。

 もともと本木雅弘主演で乱歩の「双生児」を映画化するという企画があり、そこに後から塚本監督が参加して作られた映画だという。でも当然のことながら、塚本監督が単なる雇われ監督になるはずがない。彼はこの映画では、監督・脚本・撮影・編集の4役を担当。映画は全編、監督の強烈な個性を感じさせるものに仕上がっている。以前に大手映画会社で塚本監督が撮った『ヒルコ/妖怪ハンター』よりも、さらに趣味性の高い映像。こんな映画を東宝が全国公開して、はたして客が来るのか心配になってしまうぐらいです。『リング』『リング2』『催眠』など、邦画業界はホラー作品にトレンドの追い風が吹いているのですが、この『双生児』はホラーなんだろうか。確かに恐い映画なんだけど、それはホラーの恐さとは違う恐さだと思う。一種の心理サスペンスです。

 主人公の雪雄は、戦地で勲章をもらったほどの優秀な医者です。自宅件診療所で毎日大勢の患者を診察し、患者たちからも名医として慕われている。家族は両親と妻。しかし妻は記憶喪失で、過去のことを覚えていない。ある日、雪雄の父が自宅で変死。母親もその直後に死亡する。雪雄は庭を散歩中に男に襲われ、庭の涸れ井戸の中に突き落とされる。襲った男は雪雄とうりふたつの顔立ち。その男は雪雄を井戸の底に残したまま、雪雄に成りすまして生活を始める。捨吉というこの男は、赤ん坊の頃に捨てられ、貧民窟で育てられた、雪雄の双子の兄弟だった。日頃から雪雄の行動を細かく観察していた捨吉は、言葉遣いや表情、細かなクセまで完璧に雪雄をコピーする。だが妻との秘め事だけはコピーできず、妻は雪雄の異変に気づいてしまった……。

 入れ替わった雪雄と捨吉が、少しずつ相手そのものになって行くのが、この映画の中心テーマ。これは「入れ替わりもの」の定番テーマで、古くは「王子と乞食」から映画『フェイス/オフ』まで、繰り返し描かれてきたものだ。しかしこの映画では、人間が立場を入れ替えたことによるカルチャーギャップを描こうとはしていない。捨吉の行動でもわかるとおり、そんなことは入れ替わって早々にクリアされてしまうのだ。この映画で描かれているのは、入れ替わりによって生じるアイデンティティ危機の問題だ。雪雄を井戸に閉じ込め、すべての実権を握っているはずの捨吉が、徐々に自分自身を失っていく様子が面白い。かなりの異色作。カルトです。


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