新しい肌

1999/06/11 パシフィコ横浜
(第7回フランス映画祭横浜'99)
職業訓練所で新しい生き方を模索する男たちの友情と絆。
男の世界を女性監督が描いた佳作。by K. Hattori


 パリでゲーム製作の仕事をしていたアランは、ある日突然仕事を辞め、新しい仕事を探しはじめる。仕事を辞めた理由は、あまりはっきりしない。ただ何となく、それまでの仕事が「自分の仕事ではない」と思ったのだ。家には看護婦をしている妻と5歳の娘がいる。アランの選択に、二人は戸惑わないわけでもない。職業安定所でどんな仕事を探しているのかたずねられたアランにも、特に目指すべき明確な進路があるわけではない。彼は係官にすすめられるまま、建設現場で働くための職業訓練を受けることになる。訓練期間は4ヵ月。山の中の訓練所で男ばかりの合宿生活だ。アランは若い訓練生マニュとすぐに仲良くなる。マニュは子供の頃から建設用大型車両の運転手に憧れ、喜び勇んで訓練に参加している。だが皮肉なことに、マニュは訓練生の中で一番不器用で、いつも落第寸前の成績だった。

 話の筋だけを書き出すと、なんだかフランス版『学校III』みたいですが、この映画が描こうとしているのは、自分のそれまでの人生やキャリアを捨て、新しい生き方を選択しようとする男たちの姿です。仕事を辞めたことを妻に揶揄されたり、彼女が自分の新しい仕事に興味を持ってくれないことを知って傷つくアランの姿に、僕はいたく同情してしまった。こういうことは、日常の中によくあることだと思う。僕も会社勤めを辞めてフリーになった時は、奥さんからアレコレ言われましたし、新しい仕事にまったく理解を示してもらえなかったのも同じ。アランと同じように、僕にも娘がいるし、最近では仕事場にこもって家にも帰らなくなってしまったし……。フリーのライターとブルドーザーの運転手という仕事の違いこそあれ、置かれている立場はなんと似ていることか。違うのはアランが外向的な性格で目下の者の面倒見がいいこと、女性に持てることでしょうか。うらやましい。

 何とかして自分を変えようとする人間たちの話なのに、この映画の登場人物たちは、結局変わることができない。アランは妻と子を完全に捨ててしまうことなどできないし、アランの妻も夫に合わせて自分の行き方など変えるつもりはない、マニュも最後の土壇場になってそれまでの弱い性格が面に出てしまう。アランは最後の試験にトップ合格しても、ブルドーザーの仕事はせずに、家族のいるパリに戻るつもりのようだ。ひょっとしたら、もといたゲーム業界に復帰してしまうのかもしれない。なんという皮肉。結局、人生などそう簡単に変わりっこないという諦観。フランス映画ですなぁ……。

 これは主人公たちにとって大きな挫折でしょう。しかしこの映画の後味は決して悪くない。むしろすっきりと爽やかで、観終わった後で元気が出てくるような気さえします。結局彼らは、自分の思うところに従って精一杯の努力をした。だからこそ、失敗しても悔いはないのです。この「男の世界」を描いたのは、女流監督エミリ・ドゥルーズ。これが長編デビュー作です。

(原題:PEAU NEUVE)


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