ウェイクアップ!ネッド

1999/05/25 映画美学校試写室
死んだ男の当選宝くじを、村中全員でネコババする!
出演者は地味だが、中身は面白い。by K. Hattori


 テレビCMではタレントの所ジョージが、「3億円時代はじまる!」と宝くじの高額賞金をアピールしている。「1億使ってもまだ2億!」という言葉は、確かに魅力的だ。しかし世界には3億どころではなく、もっと高額の賞金が出る宝くじが存在する。日本の宝くじは売場に並んだくじから「連番」「バラ」を選んで購入する程度だが、欧米では自分の好きな数字を選んで番号を設定する「ロト」という方式に人気があり、各人がそれぞれのラッキーナンバーや記念日にちなんだ数字のクジを購入する。この様子はニコラス・ケイジとブリジット・フォンダが主演した『あなたに降る夢』で面白おかしく描かれていたので、映画ファンなら心当たりのある人は多いと思う。こうしてクジの購入者が自分の好きな数字を選んだ場合、しばしば1等当選の数字を誰も選んでいない「当選者なし」というケースが生じるが、その場合は受取人のいない賞金が翌週の賞金に上乗せされる。こうして1枚の宝くじが、時には数十億の大金に化けるのだ。

 この映画は、そんな宝くじに一喜一憂する庶民の姿を描いた人情コメディ。登場人物たちがほとんど老人で、腕力にものを言わせるスーパーヒーローも、美しさで観客の目を引きつける可憐なヒロインも登場しない。登場する役者たちは全員が芸達者だが、名前で映画ファンの耳目を集める有名スターは皆無。なんとも地味な映画だ。しかしこれが、ひどく面白いのだ。

 物語の発端は小さな新聞記事だった。新聞によれば、その週の1等当選宝くじは、南アイルランドの小さな島で発売されたという。だがその島には村がひとつしかなく、住人は52人しかいない。村に住んでいるジャッキーは、妻のアニー、友人のマイケルと3人で、クジの当選者を探し出そうと考える。幸運を独り占めなんて、ずいぶんと水くさい話じゃないか。当選者は村人たちに、せいぜい大判振る舞いをしてもらわなければなるまい。ところがいくら3人が知恵を絞っても、当選者はなかなか姿を現さない。それもそのはず。当選したネッド・ディヴァインは、当選の喜びが大きすぎて、クジを握りしめたままショック死していたのだ。ネッドには家族がいない。このままでは高額の賞金も、受取人不在のまま宙に浮いてしまう。それでは村人たちへの幸運のおこぼれも、存在しなくなってしまう。ジャッキーはネッドにしばらく「生きていてもらう」ことにして、宝くじの賞金を受け取ろうとするのだが……。

 この映画がユニークなのは、主人公を宝くじの当選者ではなく、当選者にタカろうとする人物にした点。世の中にはクジの当選者より落選者の方がはるかに多いわけで、そうした大多数の人たちは、当選者に対して羨望と嫉妬と、何とかしてその一部が自分のものにならないかという欲望を持っている。当選者の気持ちなんてわからなくても、落選者の気持ちならよくわかるのだ。

 イギリス映画らしいブラックユーモアもたっぷり。無名の俳優も、みんな味のある顔をしています。

(原題:WAKING NED DEVINE)


ホームページ
ホームページへ