セレブリティ

1999/05/14 イマジカ第1試写室
ウディ・アレンが出演していない、ウディ・アレンの主演映画。
アレンの映画が好きな人は気に入るはず。by K. Hattori


 ウディ・アレンの最新作。彼の映画には、いつも似たような性格の主人公が登場する。頭が良くて才能もあるくせに、いつも些細なことに悩んで、それをベラベラしゃべり続ける優柔不断な男。そのくせ、なぜか女性にはモテモテなのだ。こうした主人公像がウディ・アレンの形を変えた自画像であることは、ドキュメンタリー映画『ワイルド・マン・ブルース』を観ると一目瞭然。今回の映画『セレブリティ』にはアレン本人が出演していないのだが、替わりに主演しているケネス・ブラナーが見事にウディ・アレンのそっくりさんを演じている。今回は物語のモチーフになっているのが「中年男の危機感」だったため、還暦過ぎのアレン本人が主演するわけにはいかなかったのでしょう。

 アレンの映画はどの作品でも主人公が同じキャラクターなので、彼の映画のどれか1本でも気に入ってしまえば、あとはどの映画を観ても主人公が好きになってしまうという傾向がある。この映画の主人公も、『世界中がアイ・ラヴ・ユー』や『地球は女で回ってる』でアレン本人が演じた役と同種の人物。今回は「ウディ・アレンが主演しないアレン映画の集大成」という趣もあって、映画は『マンハッタン』を連想させるモノクロ画面、有名スターの大挙出演、著名人のゲスト出演などで、いつも通りのアレン節を聞かせます。テレビ局の控え室にどんどん人が詰め込まれていくのは、アレンお気に入りのマルクス兄弟からの引用でしょう。

 『世界中がアイ・ラヴ・ユー』でミュージカルという搦め手に走り、『地球は女で回っている』では現実と虚構が交錯する複雑な構成で語り巧者ぶりを見せつけたアレンですが、今回の物語はもっとずっと単純です。学生時代に知り合って結婚した妻ロビンと、16年間も生活を共にしてきたリー・サイモンは、ある日「僕にはもっと別の人生があるはずだ!」と思い立って離婚を決意。晴れて独身生活をエンジョイし始めたリーだが、女性にだらしなくて失敗続き。一方、夫に捨てられたロビンは自暴自棄になりかけるが、テレビ局のプロデューサー、トニーと知り合って幸せをつかむ。

 同年輩の女性と恋愛関係にあるのに、はるかに年下の女性になびいてすべてを失うという関係は、名作『マンハッタン』のちょうど逆パターン。僕はこの映画そのものが、巧妙なパロディ作品のように思えてしまった。淫乱なメラニー・グリフィス、傍若無人な若手スターのディカプリオ、男を翻弄するウィノナ・ライダー。どれもセルフ・パロディめいたタイプ・キャスティングで、意外性はカケラもない。でも、それがいいのでしょう。

 『地球は女で回ってる』にも出演していたジュディ・デイヴィスが、今回はどん底から幸せをつかむヒロインを好演。この映画の中で一番面白かったのは、彼女とジョー・マンテーニャのエピソードかもしれません。彼女が彼を喜ばせようと、娼婦から性技指南を受ける場面もすごく面白かった。意外にかわいい役なんです。

(原題:Celebrity)


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