突然炎のごとく

1999/05/07 メディアボックス試写室
1961年に製作されたフランソワーズ・トリュフォー監督作。
ジャンヌ・モローが奔放なヒロインを好演。by K. Hattori


 アンリ=ピエール・ロシェの小説「ジュールとジム」を映画化した、1961年のトリュフォー作品。物語の舞台は、第一次世界大戦前のフランス。フランス人青年ジムとドイツ人青年ジュールは親友同士。ジムは女の子にモテモテだが、ジュールはいつも振られてばかり。だがある日、ジュールはカトリーヌという女性と恋に落ちて同棲を始める。やがてふたりは結婚。第一次大戦も始まると、ジュールとジムの国は敵味方同士に分かれてしまうが、ふたりは無事に戦争を生き抜き、以前と変わりない友情が復活する。だが、ジュールとカトリーヌの結婚は破綻しかけていた。彼女を愛するジュールは、自宅を訪ねてきたジムに思いがけない提案をするのだが……。

 複数の男性の間を渡り歩き、自分の恋愛感情を曲げようとしないカトリーヌ。「男は複数の女性を同時に愛せるのです」と言った有名俳優がいたが、カトリーヌは複数の男性を同時に愛しはしない。彼女はいつだって目の前にある恋愛だけに誠実なのです。彼女がやっていることはメチャクチャですが、恋に対して二股をかけているわけではない。ジュールを愛しているときはそれに一生懸命だし、ジムを愛し始めればジュールを冷たくあしらう。彼女は常に、複数の男性の間を移動している。男たちは移り気な彼女の周囲で、ただオロオロするばかり。

 「別れた彼女(彼氏)と今でも親友同士」という人が世の中にはいますが、この映画に登場する人たちもまさにそのタイプ。男たちはカトリーヌと別れた後も、彼女のよき友人であろうとする。彼女があまりにも魅力的なので、完全に手放してしまうことができないのです。カトリーヌの方もそれは同じ。彼女は関係の冷めてきたジムに、「離れて暮らしましょう。完全に別れてしまった後で、やっぱり愛していたことがわかると嫌だから」と言いますが、それと同じ気持ちを、彼女はジュールに対しても持っているのでしょう。しかしこうした付かず離れずの微妙な関係が、いつまでも続くはずはない。3人は次第に、この関係に息苦しさを感じ始める。間もなくジムはこの関係を清算して、別のガールフレンドと婚約してしまうのです。でも、それで終わりではない。

 映画の原題は原作と同じ『ジュールとジム』ですが、映画ではふたりの男より、ヒロインのカトリーヌの存在が大きくクローズアップされてくる。演じているのはジャンヌ・モロー。彼女は『エヴァの匂い』でも、奔放に振る舞って男たちを破滅する女を演じていますが、こういう役を演じても、まったく嫌味に見えないのが彼女のすごさだと思う。絶世の美女というわけではないけれど、男たちを魅了させる不思議な魅力の持ち主です。カトリーヌは自分に恋する男たちの間をクールに渡り歩いていますが、最後は突然心にわき上がった恋の炎に焼かれてしまう。これぞ真の恋の恐ろしさと愚かしさ。『突然炎のごとく』とは、けだしよく付けた邦題だと思う。今世紀初頭の実景フィルムを織り交ぜた構成なども、なかなかユニーク。疲れて眠かったのだが、面白く観られた。

(原題:JULES ET JIM)


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