プリンス・オブ・エジプト

1999/04/22 UIP試写室
旧約聖書の「出エジプト記」を最新のアニメーション技術で映画化。
聖書の記述を尊重した巧みな脚色に驚く。by K. Hattori


 ドリームワークスのアニメ大作。製作総指揮は元ディズニー会長のジェフリー・カッツェンバーグ。原作はギネスブックも認める世界最大のベストセラー「聖書」で、モーセがイスラエルの民をエジプトから脱出させる「出エジプト記」をモチーフにしている。かつてセシル・B・デミルが、『十戒』として2度映画化したのと同じ物語だ。今回の映画化では、モーセとエジプト王を義理の兄弟という設定にし、エジプトとイスラエルの対立に兄弟の愛憎が絡み合ってゆく。聖書に関する知識がない人ても、義理の兄弟が愛し合いながらも別の道を歩んで行く物語として、素直に受け止められるのではないだろうか。僕は聖書を少しは読んでいるので、この映画が聖書を案外忠実に映画化していることに驚いてしまった。聖書の中でもモーセの物語は、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒にとって大切な部分ですから、容易に面白おかしく脚色はできないのでしょう。

 聖書の中には、モーセがエジプトでファラオの王女に育てられたことは記されていますが、王子の兄弟として育てられたとは一言も書いていません。ですからこれは、映画製作者たちの脚色です。この映画では、聖書に書いてあることはなるべく聖書に忠実に、聖書に書かれていないことについては自由に想像力を働かせる方針だったようです。これによって、王子ラメセスというキャラクターが生まれます。ここで言うラメセスが、何代目のラメセスのことかはよくわかりませんが、雰囲気としては王朝時代最盛期に君臨したラメセス2世でしょうか。モーセも紀元前13世紀ごろの人物だと言うから、それともだいたい時代が一致します。

 映画では聖書の記述を変えている部分もあります。モーセの妻ツィポラが自立した現代風の女性になっているのが、いかにも今の映画。モーセの実兄アロンは、預言者モーセとイスラエルの民を仲立ちする重要な人物ですが、これはラメセスとモーセの兄弟愛を全面に出した分、かなり後退しています。モーセの実母がミリアムの計らいで彼の乳母になる場面はないし、モーセがエジプト人を殺すくだりも、より劇的に脚色されました。映画はモーセがシナイ山から十戒の石版を持って降りるところで終わりますが、じつはモーセの留守中、お調子者のアロンが金で子牛の像を造って祭りを行い、それを見たモーセは怒り狂って石版を粉々に砕いてしまうんです。映画ではそのくだりが、そっくりカットされています。

 最近は普通の劇映画でも、デジタル処理を使ってどんな場面でも作ることができます。アニメならなおさら、作り手のイマジネーション次第でどんな場面でも思い通りに作り出すことができる。目の肥えた現代の観客に、神がモーセを介して行ったさまざまな奇蹟で驚かせるのは、かなり難しいことです。しかしこの映画では、その困難に果敢にチャレンジして、見事に観客を驚かせてくれます。有名な紅海が割れる場面は、アニメでありながら身震いがするぐらい迫力のある場面になっています。

(原題:The Prince of Egypt)


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