ロック、ストック&
トゥー・スモーキング・バレルズ

1999/04/16 SPE試写室
借金返済のためにギャングから金を奪おうと考えた4人組。
金を稼ぐというのは苦労の連続だ。by K. Hattori


 とても一度には覚えられそうにない長いタイトルを持つこの映画は、昨年の東京国際映画祭に出品され、最優秀監督賞を受賞したイギリス映画。監督はミュージック・ビデオやコマーシャル出身で、これが長編映画デビュー作となるガイ・リッチー。ロンドンの下町で暮らす幼なじみ4人組が、ギャングとの賭カードに負けて作った50万ポンドの借金。返済期日は1週間で、1日遅れるごとに4人の指を1本ずつ切り落とすという。儲け話がフイになったばかりか、莫大な借金まで抱え込んだ4人は、偶然隣に住むギャングの部屋から聞こえてきた麻薬売人の襲撃計画にこっそり相乗りし、奪った金をさらに奪おうと考える。計画はあっさり成功。しかし彼らはこれで、四方八方を敵に囲まれることになってしまう。

 4人組の内のふたり、ベーコンとトムが街角でインチキっぽい露店を開いている導入部から、物語にぐいぐい引き込まれる。この場面でもそうなのだが、この映画で魅力的なのは、立て板に水のように流れ出す歯切れのいい台詞の数々。ロンドン下町のコックニー訛りや俗語を積極的に取り入れたそうで、訛りがひどすぎる場面では、イギリスが舞台の映画でイギリス人同士が英語で会話をしているのに、画面の下に英語の字幕が出る。またこの映画は、ロンドンという大都会の縮図にもなっている。ここには下町の低所得者層出身者、中産階級、移民など、ありとあらゆる階層と人種が入り混じっている。

 いくつも死体の山が築かれる犯罪ドラマだが、映画のタッチはあくまでもユーモラスでコミカルなもの。こうした映画を観ると、最近は条件反射的にタランティーノやコーエン兄弟の名前を連想してしまうのだが、ガイ・リッチーはこうした監督たちとはまったく異質の個性を持っている。イギリス特有の、極度に意地悪な感覚だ。この映画では、登場人物相互の利害関係がきれいにかみ合わず、少しずつズレている部分が強調される。さらに、登場人物同士の衝突にもどこかアナがある。こうしたズレやアナの存在によって、物語はわかりやすい結末を迎えられないまま、どんどん結論を先送りにして行くのだ。

 登場人物たちが示し合わせたようにすれ違ったり、鉢合わせしたりする様子は、ご都合主義以外の何物でもない。しかし作り手はそんなこと百も承知。だから、黒人のギャンググループが主人公たちの部屋を襲いに行く場面で、のどかなチターの曲などかけて場面全体を茶化してしまう。この映画の中では、ギャングやチンピラたちが真剣に何かをやればやるほどドツボにはまって破滅して行く。大真面目になればなるほど、それがユーモアやギャグに転じてしまう。クライマックスの大殺戮シーンには、『ブルース・ブラザース』のパトカー破壊と同じギャグ・センスを感じさせるではないか。

 登場する役者たちは皆そこそこのキャリアの持ち主らしいが、全員が「この役にはこの人しかないだろう」と納得できる素敵な面構え。こそ泥や用心棒から親子連れの借金取りまで、どの登場人物も面白すぎる!

(原題:Lock Stock & Two Smoking Barrels)


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