殺人者

1999/04/15 徳間ホール
岩城滉一扮する孤独な殺し屋が、組織からひとりの少女を守る。
ナルシスティックなばかりで締まりのない映画。by K. Hattori


 岩城滉一主演のアクション映画だが、もったいぶって格好つけているだけの、ナルシスティックな作品。フィリピンで長年プロの殺し屋として働いている主人公セイジは、自分自身の仕事にウンザリし、引退を考えていた。最後に引き受けた仕事は、組織を裏切った男を殺し、彼の娘を捕らえること。だが同行した若い男が少女を乱暴しようとする姿を見たセイジは、発作的に男を射殺して少女を助け出してしまう。セイジのこの行動を、組織が許すはずがない。セイジと少女の逃避行がはじまる……。セイジを追う組織のボスを演じているのは、アカデミー賞の中継でお馴染みの別所哲也。今回も得意の語学力を生かして、英語と日本語のチャンポン芝居を見せています。セイジに助けられる少女ヒカリを演じているのは、「第7回国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞を受賞した上戸彩。彼女はこれが映画デビュー作になります。

 無口な殺し屋が組織に反抗してひとりの少女を守ろうとする筋立ては、『レオン』に影響を受けているのが明白。主人公が少女をつけねらう組織と取り引きしようとするくだりは、『レオン』の元ネタである『グロリア』にも少し似ているかもしれない。ところが、この『殺人者』という映画には、『レオン』や『グロリア』を超える部分が少しもないのです。この映画は、いったい何がやりたいんだろうか。僕にはさっぱりわからない。そもそも、撮影場所がフィリピンになっている理由がわからない。少女が日本人の男と現地女性の間に生まれた混血だという設定も、物語の中で生かされていない。

 同じ物語を描くにしても、主人公の男、組織のボス、少女の父親という、日本語を話す3人の男たちを丁寧に描き分けていけば、また別のドラマが作れたと思う。彼らが日本人だとしたら、彼らは何のためにフィリピンにいたのか。彼らの思い描いた夢とその挫折を、フィリピン人と日本人双方の血を受け継いだ少女を軸に回して行くことだって出来るはずなのです。彼らは日本では得られない何かを、フィリピンで求めようとしている。日本には帰れない何らかの事情を、それぞれが抱えている。そんなサイドエピソードをうまくふくらませて行くだけで、主人公と組織の若いボスの対立も際だったと思うし、少女の置かれている微妙な立場にも陰影が増したと思う。

 壮絶なガンファイトがこの映画の見せ場になっているのだが、アクションのつながりに不可解な点が多くて興醒めすることが多い。弾を大量にばらまけば迫力が増すというものでもあるまい。個々のアクションが、全体の流れの中でどう機能しているのかが問題なんです。主人公が凄腕のプロなら、それなりのガンさばきを見せてほしい。『ホワイトハウスの陰謀』のダイアン・レインみたいに、相手が銃を乱射している中で少しも慌てず一発必中の腕前を見せるとか……。そうすると、ラストの一対一の戦いも盛り上がるだろうし。この映画には、素人である僕の目から見ても、まだまだ工夫の余地はあるように思えます。全体に締まりのない映画でした。


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