恋におちたシェイクスピア

1999/04/07 UIP試写室
アカデミー最優秀作品賞以下、主要7部門を受賞した作品。
脚本がうまい。グウィネス・パルトロウ最高。by K. Hattori


 今年のアカデミー賞で、最優秀作品賞以下、主演女優、助演女優、オリジナル脚本、美術、衣装デザイン、音楽など、主要7部門を受賞した作品。授賞式の時点で映画を観ていなかったため、ここまで高い評価を受けながら監督のジョン・マッデンが賞から漏れたのが不思議だったのだが、映画を観て納得。この映画の面白さは、まず第一にストーリーの着想の面白さ、次に脚本の巧みさと編集の妙にあり、美術と衣装と音楽がそれを助けている。グウィネス・パルトロウの表情が素晴らしく、これまでの彼女のキャリアの中でも最高のでき。彼女は表情に固いところがあって、今までの映画ではオドオドしたりギスギスした感じを与えることが多かったのですが、今回は恋する乙女の強さと弱さを巧みに演じわけ、スクリーンの中で見事に大輪の花を咲かせました。助演女優賞のジュディ・デンチは出演場面の少ない儲け役。出突っ張りのジェフリー・ラッシュも、強い印象を残します。

 物語を単純に要約してしまえば、『メイキング・オブ“ロミオとジュリエット”』です。新作戯曲の依頼を受けながらも、スランプに陥って1行も書けなくなってしまった若きウィリアム・シェイクスピアが、美女との運命的な恋によって創作意欲をかき立てられ、歴史的な名作「ロミオとジュリエット」を書き上げる。シェイクスピアの私生活と、劇場で準備とリハーサルが続けられる「ロミオとジュリエット」の物語が、じつに巧みに交差しながら進行して行くのです。シェイクスピアと恋人との台詞がそのまま舞台の上の台詞になり、舞台の上の台詞がそのまま恋人たちの台詞に持ち込まれてくる。台詞の引用はほとんど説明なしに行われているので、あらかじめ映画か本で「ロミオとジュリエット」を復習しておいた方がいいかもしれない。オススメはディカプリオとクレア・ディーンズの映画かな。あれは台詞も構成も、ほとんど原作戯曲の通りですからね。

 舞台劇を作るバックステージものですが、構成はじつに映画的です。映画に可能で舞台劇では絶対に不可能なものは、クローズアップとカットバック。この映画はそのふたつの手法の連打なのです。舞踏会で出会い、瞬時に恋におちるシェイクスピアとヴァイオラの表情をアップでとらえる場面。ベッドでの睦言と、舞台上の台詞を対応させるカットバック。これこそ、映画でしか味わうことのできない至福の瞬間です。カットバックは映画のあちこちで効果的に使われており、それが映画のアイデアと不可分に結びついている。この映画の脚本が高く評価されたのも、まさにそのあたりにあるのでしょう。

 この映画は、アクロバティックな脚本で観客を驚かせるだけではありません。恋愛映画としても、じつによくできている。ここでモノを言うのが、グウィネス・パルトロウの表情。これがもう素晴らしいの一語。彼女はあまり僕の好みのタイプではないのですが、この映画の彼女には惚れました。彼女の表情を観ているだけで、涙ぐんでしまいそう。ラストシーンは泣けます!

(原題:Shakespeare in Love)


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