ヒート・アフター・ダーク

1999/04/05 シネカノン試写室
渡部篤郎・鈴木一真・泉谷しげるが壮絶なガンファイトを演じる。
50分の短編映画だが、それなりに面白い。by K. Hattori


 神崎は古くからの友人・後藤に呼び出されて、久しぶりに旧交を温めあう。他愛のない近況報告に花が咲くが、間もなく後藤は「じつは人を殺してしまった」と話し出す。後藤はヤクザ組織の中堅幹部・李ともめた挙げ句に殺してしまい、その後始末に困っていた。死体を始末しなければ。こんな時に頼れるのは、親友の神崎しかいない。嫌な頼られ方をしてしまった神崎は、それでも車のトランクに死体を載せ、後藤とふたりで、間もなくダムの底に沈むという廃村まで車を走らせる。だが、現地についてトランクを開けると中は空っぽ。死んだと思っていた李は、生きていたのだ。李は後藤への復讐に燃え、神崎も否応なしにそれに巻き込まれて行く。

 わずか50分の短編(中編か?)映画だが、なかなか見応えのある作品。監督・脚本・編集は新人の北村龍平。神崎役で主演し、プロデューサーも兼ねるのは渡部篤郎。トラブルメーカーの後藤を鈴木一真が演じ、凶暴な李を泉谷しげるが演じている。中心になるのはこの3人だけ。中身はほとんどが廃校と廃工場での銃撃戦だが、弾丸が雨のように降り注ぐ映画ではない。室賀・小沢コンビの『SCORE』は、最初から暴力と暴力のぶつかり合いにポイントを絞った快作だったが、『ヒート・アフター・ダーク』は、暴力と無縁の平凡な人生を送ってきた男が、ふとしたきっかけで血生臭い世界に足を突っ込んでしまい、戸惑い迷った挙げ句に開き直る話なのだ。

 銃撃に巻き込まれても、「誰もいないって言ったじゃないか」「俺は帰らせてもらうぞ。今夜は大事な用事があるんだ」と、最初から逃げ腰の神崎。しかし周囲を李の仲間たちに取り囲まれ、友人の後藤が絶体絶命のピンチになると、やはり戻ってきてしまう。映画ではその理由が、あまり明確ではない。周囲を取り囲まれて脱出が不可能になったのか、それとも、後藤に対する友情の賜物なのか、あるいは神崎自身が私生活に問題を抱え、それを振り捨てようという気持ちの表れなのか。神崎が態度を180度かえるこの場面は、彼にとっての心理的な葛藤のクライマックス。この映画ではそれをカットしてしまうため、物語全体がやや平板な印象になっている。

 主人公たちの顔を見せず、低く構えたカメラで足元だけを写して行くオープニングや、自動車での移動をスチル写真で表現する部分など、導入部は見せる工夫がたくさん詰まっていて面白い。ここで「おっ、何か変わったことをしているぞ」と思わせただけでも、この映画は大成功。最初の店の中の場面にしろ、車の中の場面にしろ、普通に芝居を撮ると、わりと面倒な場面です。特に車の中の場面は、狭い車内でカメラを切り返したりしていると、ものすごく手間と時間がかかってしまう。このシーンをスチルで処理したのは、そうした手間を省くという意味でも、すごくユニークなものだと思う。

 個々の芝居や絵作りに関しては、50分でだいたい監督の力量がわかります。ただし物語の才能は、もう少し長いものを作らないとわからない。次回作に期待だ。


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