ラン・ローラ・ラン

1999/03/19 徳間ホール
恋人の危機を救うため、全速力で走って行くローラ。
スピード感抜群の知的コメディ。by K. Hattori


 フリーターのローラと、ギャングの下っ端のような仕事をしているマニは熱愛中の恋人同士。ある夏の日、ローラのもとに恋人のマニから電話が入る。「ボスから預かった金をうっかりなくしてしまった。12時までに10万マルク用意しないと殺される!」。時間は111時40分。タイムリミットまであと20分だ。「私が何とかする」と大見得を切ったローラが頼りにするのは、銀行頭取をしている父親だ。ローラはアパートの部屋を飛び出し、父のいる銀行まで猛スピードで走って行く……。

 『ビヨンド・サイレンス』や『悦楽晩餐会』など、最近になって面白い映画が何本か日本に輸入されているドイツから、またまた飛び出した元気な1本。監督・脚本のトム・ティクヴァは1965年生まれのまだ若い監督で、これが3本目の作品だという。前の2本がどんな作品なのかまったくわからないが、この『ラン・ローラ・ラン』はとにかく面白かった。警官がサッカーボールを蹴り上げるオープニングから、映画はノンストップで最後まで突っ走る。上映時間は1時間21分。主人公たちに残されている制限時間は20分。この映画ではその制限時間をフルに使って物語が一度完結した後、「あの時こうしていれば」という可能性の世界目指して時計が逆回りし、再び主人公が走りはじめる。

 最近どういうわけか、この「もしも××ならば」という可能性を追求する映画が多い。グウィネス・パルトロウ主演の『スライディング・ドア』がそうだったし、間もなく公開される『イフ・オンリー』という映画もそうだった。こうした映画では、何度も繰り返される同じ時間の中で、何が変化し、何が変化しないかという違いが笑いを生み出す。この映画では、ローラとすれ違うさまざまな人のその後の運命が、ちょっとしたタイミングのズレで大きく変化してしまうのがおかしい。主人公ローラとマニの人生も、ほんの数秒のタイミングの違いで大きく変化して行くのだ。こういう映画を観ていると、楽しいと同時に、何だか哲学的な気持ちになってしまう。人間にとって、運命とは何でしょう……。ナンチャッテ。

 主人公ローラの走るシーンが、全体の半分ぐらいあるんじゃないでしょうか。演じているのはフランカ・ポテンテという若い女優ですが、当然のようにまったく馴染みのない顔。特別な美人でもないし、モデルのようにスラリとした体型でもありませんが、意志の強そうな顔立ちと、腰から足にかけてのたっぷりした筋肉が、ひたすら走り続けるローラというキャラクターに説得力を与えています。何しろローラは自分のアパートから恋人のもとまで、全力疾走で3回走るのです。これがカワイコチャン型の若い細身の女優では、走っている途中でぶっ倒れて、映画がそのまま終わってしまいます。

 さまざまなカメラアングル、コマ落としやスローモーションのようなトリック撮影、アニメーションなどを駆使した映像で、主人公がただ走るだけの物語を飽きずに見せる工夫をしています。あ〜、面白かった。

(原題:ROLA RENNT)


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