ドンを撃った男

1999/03/03 GAGA試写室
戦後最大の極道・山口組三代目を撃った男は何を考えたか……。
実録ヤクザ映画を平成の世に作る難しさ。by K. Hattori


 昭和53年7月。大阪のクラブ〈ベラミ〉で、山口組3代目組長・田岡一雄が銃撃されるという事件が発生した。この事件は昭和50年夏から53年秋にかけて行われた、山口組と松田組の抗争事件「第1次大阪戦争」のクライマックス。この3代目銃撃事件の後、山口組側は50日間に7人の松田組組員を射殺するという、凄惨な報復措置に出た。田岡組長といえば、高倉健主演の東映実録やくざ映画『山口組三代目』『三代目襲名』のモデルにもなった大親分で、美空ひばりなど芸能界との交際も広かった人。この銃撃で重傷を負った田岡組長は一命を取り留めたものの、3年後には急性心不全で亡くなった。その後、昭和60年1月に山口組の4代目・竹中正久組長が一和会系の暴力団員に射殺され、第2次大阪戦争が勃発する。これは昭和62年2月に終結した。こうした話は『ドンを撃った男』という映画には直接関係ないのだが、当時の暴力団の過激な抗争ぶりがわかる。

 この映画『ドンを撃った男』は、3代目銃撃事件の犯人・鳴海清について取材した山口勝啓の「ドンを撃った男/大日本正義団・鳴海清の死線」を原作に、舞台を現代に翻案した実録風のやくざ映画。昭和53年の事件を平成の現代に移し替えているほか、人物の名前なども変えられている。3代目銃撃犯となる主人公・成田テツオを演じているのは的場浩司。その妻を演じるのが、意外やこれが映画初出演だという千堂あきほ。中野英雄、志賀勝、室田日出男、大和武士などが脇を固め、監督はベテランの和泉聖治。的場浩司はハードな役からソフトな三枚目まで演じられる人なのだが、映画によっては表情が硬くなりすぎて本来の持ち味が発揮できないことが多い。今回は『流れ板七人』などでも一緒に仕事をしている和泉監督と組むことで、彼の持ち味や魅力がうまく引き出されていたと思う。

 惜しいのは、主人公が惚れ込む兄貴分や親分に、いまひとつ魅力が欠けること。演じている中野英雄や大和武士も決して悪いわけではないのだが、この役にはもっと貫禄のある役者がほしい。でないと、主人公が彼らの人間性に惚れ込んで舎弟になるという展開に、ひどく無理が生じてしまう。ここは男同士の間に一瞬にして強い絆が生まれる重要な場面だが、これをくどくど説明しても仕方がない。だがここがきちんと納得できないと、親分を殺され、兄貴分を失った主人公が止むに止まれず暴走する心情に、すんなりと感情移入できなくなってしまう。この映画ではそれを的場浩司の芝居で補っているが、観客も主人公と一緒に親分や兄貴分への気持ちが共有できていると、クライマックスはずっと盛り上がっただろう。

 こうした映画を観ると、往年の東映実録やくざ路線が、きら星のようなスターたちに支えられていたことがよくわかる。『仁義なき戦い』シリーズなんて、後にそれぞれ主役クラスになる俳優たちが総出演しているんだもん。役者にもっと厚みがあれば、『ドンを撃った男』ももう少し面白い映画になったと思う。時代が違うか……。


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