ドラえもん
のび太の宇宙漂流記

1999/03/02 東宝第1試写室
謎のUFOに誘拐されたジャイアントスネ夫を助け出せ!
併映作『のび太の結婚前夜』がいい。by K. Hattori


 ジャイアンとスネ夫がUFO(というより宇宙船)に誘拐されるという、まるで『X-Files』のような導入部から、ドラえもんやのび太たちもその宇宙船に乗り込み、行く先々でさまざまな事件に巻き込まれる『ロスト・イン・スペース』になる物語。物語に大きなうねりがなくて小さなエピソードの数珠つなぎになっているのだが、これは本家本元の『ロスト・イン・スペース』と同じだ。物語の完成度や内容的には、この『ドラえもん』バージョンの方が面白かったが、どのエピソードもどこかで見たようなものばかりで新鮮さには欠ける。

 環境の悪化から故郷の星を捨て、300年も宇宙を放浪している宇宙人たちが、地球に狙いを定めて侵略の準備をしているという話です。本来は平和的な種族だった彼らは、邪悪な宇宙生命体に操られている。ドラえもんやのび太の活躍で、このたくらみは未然に防がれますが、最初は地球移住を考えていた彼らが、いつの間にかその考えをすっかり捨てた理由がよくわからない。彼らは宇宙を放浪して、次なる星を探すのだろうか。それとも星に定住することをあきらめ、宇宙を旅して回る新しい生き方を選んだのだろうか。ここがはっきりしない。

 宇宙船団の連中が、それぞれの星の資源を食いつぶし、環境を破壊して宇宙に飛び出したというのは、明らかに現在の地球環境破壊を念頭に置いてのアイデアでしょう。ならば、宇宙船団の人々が、地球を完璧な環境であるかのように言うのはおかしい。ここで彼らが「地球人は地球を毒の星にしようとしている。彼らは自分たちの星の大切さに気づいていないのだ。無知で愚かな地球人たちに、美しく貴重な星を汚させたくない」とでも言わせると、「自然を破壊する人間」という映画のテーマが強調されるし、SF作品としての毒も出てくる。「ドラえもん」の原作者である藤子・F・不二雄は優れたSFマンガを描く作家で、「ドラえもん」自体も子供向けの優れたSFマンガだ。原作者が生きていれば、映画に込められたメッセージももう少しストレートで鋭いものになっていたと思うのだが、今回の映画は設定こそSF風だが、中身はただの冒険活劇。これはもったいないな。

 同時上映の2作品と併せて、2時間16分の長丁場。併映の『ザ・ドラえもんズ/おかしなお菓子なオカシナナ?』は、ドラえもんタイプのロボットが大量に出てきてお菓子を作るという、面白くもおかしくもない内容。絵柄も主人公であるドラえもんズ以外は、藤子・F・不二雄の原作と異なっている。もう1本の併映作は、のび太としずかちゃんの結婚を描く『のび太の結婚前夜』。これは確か、原作があったと思う。明日は嫁ぐというしずかちゃんが、両親と最後の夜を過ごす場面は感動的。父親が娘に「お前との思い出こそが宝物だ。ありがとう」と言う場面では、思わず涙が出そうになってしまった。まるで小津安二郎の映画だ。小さな子供を連れて映画を見に来た親たち、特に女の子を持つ親(僕もそうだけど)は、これを観て感動すること間違いなしだ。


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