制覇

1999/02/05 徳間ホール
昭和57年の東映映画とは無関係の新世代やくざ映画。
「制覇」と威張っても八王子だぜ!by K. Hattori


 同じ『制覇』というタイトルの映画は、昭和57年に中島貞夫監督が東映で撮っていますが、それとはまったく関係のない竹内力主演のヤクザ映画です。いくら何でもこのタイトルは大げさだと思いますが、内容的にはまずまず楽しめる作品。6月にはビデオ発売が決まっているのですが、そのまえに「未公開」の冠を取るためにかける映画館が、よりによって新宿昭和館。あの映画館では、たぶん昭和57年版の『制覇』もちょくちょくかけてそうだぞ。三船敏郎や岡田茉莉子、若山富三郎、鶴田浩二などが出演する東映の大作かと思ったら、竹内力主演のVシネもどきでは、客がびっくりしそうだな。

 暴力団組長の家庭に生まれながら、長男は親の跡を継いで組の若頭となり、次男は堅気になってレストランを経営している兄弟。だが店を訪れた父がヒットマンに撃たれ、巻き添えを食って次男の妻が殺されてしまう。嫁の死と引き替えに九死に一生を得た組長は、ヒットマンを送り込んだ対立組織とまさかの手打ち。目前に大事業を控えた組長は、対立抗争で時間と労力を取られるより、屈辱的とも思える手打ちで名より実を取る方針なのだ。長男はこれに猛反発し、対立組織の幹部を射殺。だが父である組長は、これも金で解決しようとする。同じ頃、一度は堅気になっていた次男も、組の内部にいる裏切り者を捜すため秘かに行動を開始していた。

 欠点も多い映画です。目先の利益のためにメンツを捨てる都城組長をベテランの高松英郎が演じていますが、これがまったく貫禄不足。ふたりの息子の父親には見えるのですが、息子の嫁が殺されたという情を捨てても、大局を見据えて手打ちに持ち込むという、非情な狡猾さが見られない。長男が批判するように、これではまったく弱腰に見えます。三船敏郎ならベストでしょうが、それは無理なので、せめて硬軟演じ分けられる長門裕之ぐらいをキャスティングすると、また違った感じになったでしょう。都城組の後見人である代議士にも、もう少し年季の入った俳優が欲しい。この映画だと、総会屋対策の総務課長ぐらいにしか見えないぞ。対立する伏田組の組長も、部下より弱そうだしなぁ……。

 しかし、そんなすべての欠点を吹き飛ばしてしまうのが、イケイケの長男を演じる竹内力のパワフルな演技。これには正直、参りました。物語の構成に少々難があって、結末が途中でバレてしまう欠点もありますが、竹内力の芝居は、観客の予想をすべて上回るド迫力。それまでの押さえに押さえたパワーが、一気に噴出します。う〜む、夢に出てきそうだ。弟を演じた山口祥行も悪くないけど、代議士に会うときヒゲぐらいは剃ってほしかった。それができれば満点でした。むしろこの映画で僕を唸らせたのは、弟の後見人になる菅田俊。黒沢清の『ニンゲン合格』で、新興宗教にはまる父親を演じていた人です。この人の渋い存在感が、やや浮ついたこの映画のトーンを、脇からキッチリと押さえている。最近は黒沢組の常連ですが、これからもこの役者には要注目。


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