ビジター

1999/01/22 TCC試写室
ジャン・レノ主演のコメディ『おかしなおかしな訪問者』の続編。
下品でハチャメチャなギャグに笑っちゃう。by K. Hattori


 ジャン・レノが魔法で現代にタイムスリップしてきた中世の騎士を演じた『おかしなおかしな訪問者』の続編。監督は『おかしなおかしな訪問者』『俺たちは天使だ』のクリスチャン・クラヴィエ。主演は前作と同じジャン・レノとクリスチャン・クラヴィエ。製作費が30億円。フランスで800万人を動員した大ヒット作らしいが、僕は前作を観ていないので、話そのものがまったくチンプンカンプンだった。でも面白いことは面白い。それまでの話がわからないので、各人物の性格などがわからないのは不利に働くが、中世の騎士主従と現代人の永遠にかみ合わないチグハグさが、なんともおかしくて笑ってしまう。中世の衣装やセットなどは、かなり念入りに作られているのも興味深い。この映画と同じような設定で、日本でも異色の時代劇を作れると思うけどな。

 この映画の面白さは、まず第1に、中世から現代にやってきた騎士の下僕ジャクイユの乱暴狼藉ぶりにある。中世と現代とでは習慣が違うので、彼のやることなすことが大騒動を巻き起こす。彼がテレビを壊したり、家中をメチャクチャに破壊しまくる場面は、どうしたって笑ってしまう。この映画ではこうした「文化ギャップ」を、文化の優劣として描いていない点がユニーク。ジャクイユは20世紀の文明に「戸惑っている」ものの、それを便利だとも素晴らしいとも思っていない。命の危険がないのは歓迎すべきことだが、生活が楽になるわけではないのだ。ジャクイユは20世紀の文明を目の当たりにしても、自分の中世的価値観と行動様式を変えることはないし、自分のスタイルで何ごとも押し通してしまう。

 この映画には、中世と現代の違いを俯瞰して眺められる人間がひとりも出てこない。中世人はあくまでも中世の価値観を守り抜いて行動を変えないし、現代人は中世人に合わせて何かをすることがない。同じ言葉を喋り、同じ空間を共有しながら、まったく相容れない人間たちの姿が、ミスマッチな面白さを生み出している。その最たるものがジャクイユなわけだが、彼を叱りとばすゴッドフロワ伯爵もまた、中世人として20世紀に対処する点ではジャクイユとまったく変わるところがない。

 20世紀では粗野で下品な男たちでしかなかったゴッドフロワとジャクイユが、ひとたび中世に戻るや、颯爽と活躍しはじめる。まさに水を得た魚。この映画では風俗習慣を徹底したリアリズムで描写するため、騎士たちの姿は多少野暮ったい。しかしその野暮ったさが、本物らしい迫力を生み出している。

 前作を観ていないため、話そのものは理解しづらかったのだが、馬鹿馬鹿しくも辛辣なギャグの数々は大いに笑える。騎士主従に自動車を奪われそうになる老夫婦の話や、床で食事をとるジャクイユたちに食べ物を投げ与える場面には笑ってしまった。こんな馬鹿な話に大金を投じて映画化し、それがきちんとヒットするフランスという国は、なんて素晴らしいんだろうか。『俺たちは天使だ』も面白かったし、この監督には注目だ。

(原題:CORRIDORS OF TIME)


ホームページ
ホームページへ