ロリータ

1999/01/20 東宝東和試写室
ウラジミール・ナボコフの原作をエイドリアン・ラインが映画化。
ジェレミー・アイアンズが恋する中年を好演。by K. Hattori


 かつてキューブリックも映画化したことのあるウラジーミル・ナボコフの同名小説を、『ナインハーフ』『危険な情事』のエイドリアン・ラインが再映画化。禁断の少女愛に溺れる中年男の心理をノスタルジックに描いた作品だが、アメリカでは例の「ジョン・ベネ事件」が世間を騒がせていた時期とぶつかったため、完成したものの公開が延期されていた作品だ。原作ではロリータの年齢が12歳に設定されているのだが、キューブリックはこれを15歳に変更。今回の映画でも原作通りとはいかず、14歳の少女に設定してある。主演はジェレミー・アイアンズ。ロリータを演じるのは、撮影当時15歳だったドミニク・スウェインで、彼女はこの映画の後『フェイス/オフ』でジョン・トラボルタの娘を演じている。ロリータの母親役はメラニー・グリフィス。ロリータを誘惑する作家役はフランク・ランジェラ。

 配給があの東宝東和なので、「アメリカで公開禁止」という惹句は要注意だと思った。この会社は、アメリカ国内の配給業者が買わないような安っぽいホラー映画を輸入して、「全米○○州で上映禁止!」というコピーを連発していたところです。今回の『ロリータ』も、単につまらない映画だという可能性だってある。上映時間が2時間18分と長いので、買い手が付かないほどつまらない映画だと目も当てられない。はっきり言って、試写を観るまでは内心ビクビクものでした。でも、この映画は悪い映画じゃない。むしろ「男の嫉妬」を丹念に描いた佳作だと思います。少女愛の映画というより、何十年も前に失われた初恋から逃れられない、ひとりの男の悲劇を描いた作品なのです。

 主人公ハンバート・ハンバートは13歳の時、ひとつ年下の少女と熱烈な恋に落ちる。だがその恋は、彼女の死で無惨に幕を閉じてしまう。彼は少年時代の初恋の思い出から、ずっと逃れられないでいる。ところが20年以上たってから少女ロリータと出会ったことで、彼の心は13歳の少年に逆戻りしてしまう。彼はロリータに近づくために、彼女の母親と偽装結婚。しかし自分の娘に対するハンバートの気持ちを知った母親は、道路に飛び出して事故死してしまう。ロリータにとって唯一の保護者となったハンバートは、彼女を車に乗せてアメリカ中を放浪する。だがそんなふたりを、秘かに尾行するもうひとりの男がいた……。

 14歳の少女が中年男をセックスの面でリードし、娼婦さながらに金を巻き上げるというエピソードそのものは、特に面白いものでもない。この映画の醍醐味は、ロリータの心が自分から離れていくことを半ば悟りながらも彼女にのめり込み、姿を現さない別の男の存在に怯えて嫉妬する、ハンバートの心理そのものにある。ジェレミー・アイアンズは、この手の「ヤキモチ男」を演じさせると天下一品。彼の潤んだ瞳を見るだけで、この映画の価値があります。エンニオ・モリコーネの甘ったるい音楽も、この映画にはピッタリとはまってました。

(原題:LOLITA)


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