永遠と一日

1999/01/19 東宝第1試写室
テオ・アンゲロプロスのカンヌ映画祭パルムドール受賞作。
死を意識した老詩人の心の旅。by K. Hattori


 昨年のカンヌ映画祭で、最高賞であるパルムドールを受賞した、テオ・アンゲロプロス監督の最新作。『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツが重病を患う老詩人を演じ、彼のたどってきた過去、ギリシャの現在、そして未来を、時空を越えた幻想的絵作りで描いて行く。僕は『霧の中の風景』以降のアンゲロプロス作品は全部観ていますが、今回の映画は彼の集大成とも言うべき作品なのかな……。上映時間は2時間14分。すいません、また寝てしまいました。序盤の30分弱、中盤でも少しウトウトしていたので、全部で40分ぐらいは寝ていたような気がする。現実の風景とイメージが交錯する物語で寝てしまうと、こちらの頭の中ももうろうとしていて、「幻想性」「夢幻性」の度合いが250%ぐらいアップし、ただでさえ難解な物語がより難解さを増します。これは後日、体調を整えて観直さねばなるまい。というわけでストーリーはまったくわからないので、今回は断片的に観ていた場面にだけコメントします。

 アンゲロプロスの映画が世界的に高い評価を受けるのは、彼の作り出す「無言の芝居」に力強さがあるからだと思う。言葉による説明を排して、登場人物の動作だけでそれを見せてしまう。しかも独特の長回し。今回の映画で言えば、主人公の老詩人がアルバニア人の少年を助け出す場面が完全な無言だし、霧が立ちこめる国境の検問所の場面も無言、結婚式の場面もほとんどが無言で進行する。こうした無言の場面を続けると、その後に登場人物の発する一言が、鋭い銃声のような衝撃で観客の耳に飛び込んでくるのです。もちろん、ただ無言の芝居を作ればいいというものではなくて、アンゲロプロスには無言の芝居を成立させるだけの画面造形力や構成演出のテクニックがあるのです。寝ぼけ眼で画面を見ていても、スクリーンから伝わってくるピリピリした緊張感で、スーッと目が覚めるような瞬間があります。

 ただし今回僕が観ていた範囲には、無言の芝居で観客の胸をかきむしるような感情的高まりを感じさせる部分が、あまりなかったように感じる。僕がアンゲロプロスに夢中になったのは、『霧の中の風景』で幼い姉弟が初めて列車に乗る場面だった。画面を観ているだけで思わず泣き出してしまいそうになる、あの感覚が今回の映画からは少しも感じられない。主人公の老人と少年がバスに乗って夜の町を1周するシーンはこの映画のクライマックスのひとつだと思いますが、それがただボンヤリと過ぎていったような気がする。ボンヤリした頭で観ていたからかもしれないけど、ラストシーンも絵としての美しさと面白さ以外には、あまり何も伝わってこなかった。

 アンゲロプロスが常にこだわり続ける「国境」や「難民」「放浪」というテーマが、今回は明確な絵になり切れていないような気もする。前作『ユリシーズの瞳』で、現実の戦争と向き合ってしまった反動だろうか。僕はこの監督の映画で寝てしまったのが初めてなので、ちょっとショックを受けている。体調整えてまた観るぞ!

(原題:MIA EONIOTITA KE MIA MERA)


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