スパニッシュ・プリズナー

1999/01/18 TCC試写室
詐欺師たちが仕掛けた罠にはまった男の運命は……。
監督・脚本はデビッド・マメット。by K. Hattori


 タイトルの「スパニッシュ・プリズナー(スペインの囚人)」とは、数百年の伝統を持つ古典的な詐欺話のこと。自称スペインの亡命貴族という男が、故郷で囚われの身になっている妹を助け出すためと称して、被害者から多額の身代金を巻き上げる話だ。この詐欺話は手を変え品を変え、今も詐欺師たちの常套句として通用しているという。この映画『スパニッシュ・プリズナー』は、高名な劇作家デビッド・マメットが脚本・監督したサスペンス・ミステリー。タイトルからわかるとおり、これは大がかりなコン・ゲーム(詐欺)の物語だ。

 古くは『スティング』、新しいところでは『グリフターズ/詐欺師たち』や『Lie lie Lie』『シューティング・フィッシュ』など、詐欺師を主人公にした映画は数多いが、この映画は詐欺の〈被害者〉を主人公にしているところがユニーク。詐欺師を主人公にすると痛快に見えるコン・ゲームも、被害者側から見れば、知らず知らずの内に真綿で首を絞められるような恐怖に変わる。

 キャンベル・スコットが演じるこの映画の主人公は、本来なら目の前にあるうまい話に軽々と乗せられるような人間ではない。天才的な数学者で、金銭には無頓着、そして他人には優しい。そんな善良な一市民が、なぜ詐欺師のカモになってしまうのか。『グレンガリー・グレン・ロス(映画題『摩天楼を夢見て』)』や『アメリカン・バッファロー』で平凡な人間の心に巣食う欲望を暴き出したマメットは、この作品でも、善良で非の打ち所のない主人公の中にある、わずかな「欲望」をクローズアップする。映画の中でそれを目ざとく見つけるのは詐欺師たちだが、これは作者マメット自身の視線なのだ。

 大がかりな詐欺の話はどんでん返しの連続だが、この映画ではそれがいちいち先読みできてしまう点が残念。明らかに怪しい人物に、主人公がわざわざ近づいてだまされるように見えて、詐欺話としては興をそがれてしまう。主人公がだまされていたことに気づく中盤以降は、逃れようとしても逃れられない罠の中でもがく心理サスペンスの傾向が強く打ち出されて面白くなるが、そこに至るまでの前半は単調で退屈だった。映画の前半は「疑いを知らぬ主人公の順風満帆の日々」なのだから、物語のテンポをもっと上げて、軽快な雰囲気に仕上げた方がよかったのではなかろうか。彼が詐欺師の正体に気づいてFBIに通報したところまでは、彼の人生も絶好調。そこから一気に崖下に突き落とされるのが、この主人公の悲劇だろう。知らぬ間に罠に落ちる恐さを描くにしても、最初に観客がそれを映画の雰囲気から悟っていたのでは、何も気づかない主人公が馬鹿に見えてしまう。

 同じ脚本を別の監督が撮っていれば、スリル満点の娯楽映画になっていたと思う。マメットは劇作家であると同時に、アカデミー賞にもノミネートされたことのある名脚本家だが、この映画は「脚本家自身が映画をもっとも理解しているわけではない」という好例になってしまった。この映画は、マメット5本目の監督作です。

(原題:The Spanish Prisoner)


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