サマードレス

1998/12/22 映画美学校試写室
男女の出会いと別れを通して、人間の性を描く短編映画。
監督・脚本はフランソワ・オゾン。by K. Hattori


 登場人物は3人。上映時間15分という短編映画なのに、すごく密度の高い作品。物語も特に凝った部分はなく、単純明快そのもの。結局、この映画のすごさは、芝居の濃密さや、編集の切れ味にあるのでしょう。露骨な性描写に顔をしかめる人もいるかもしれませんが、僕はそれも含めてこの映画の面白さを買います。15分というのは、長編映画ならひとつのエピソードが終わるか終わらないかという、ほんのわずかな時間。でもこの映画は、その時間をまったく無駄にしていない。海岸で男と女が出会って、翌日別れるという、たったそれだけの話を、これ以上でもこれ以下でもない完成した形で見せてくれます。監督・脚本はフランソワ・オゾン。この作品は'96年のセザール賞にノミネートされた他、世界各国の映画祭で賞を受けています。

 友人のリュックと海辺のコテージを訪れていたミックは、リュックが繰り返し聞くラジカセの音楽にウンザリして、ひとりで海辺まで自転車をこいで行く。長く続く砂浜には、ミック以外の人影がない。彼は全裸で少し泳ぐと、その姿のまま海岸でうたた寝をする。そんな彼に、タバコの火を借りに近づいたのが、同じ年頃のルシアという女性。やがて彼女は、ミックをセックスに誘う。全裸のミックを近くの林に引っ張り込み、ルシアのリードでセックスするふたり。ミックは女性とセックスするのが初めてだった。やがてふたりが海岸に戻ると、ミックの荷物はすべて盗まれていた。ミックはルシアの来ていたドレスを借りると、自転車でコテージに戻る。待っていたリュックは、ドレスを着たままのミックを荒々しく抱く。そして翌朝、ミックはドレスを持って、ルシアを見送るため港に行くのだった……。

 映画で描かれているのは、昼下がりから翌日の朝までの、せいぜい十数時間の出来事。この映画はそれを、ミックの2回のセックスを中心に描いている。ルシアとのセックスではミックが挿入する側になり、リュックとのセックスでは挿入される側になるといった役割変化は、あまり考慮する必要がないかもしれない。(ゲイ・セックスについては、正直言ってよくわからないし……。)この映画で僕がギョッとしたのは、ルシアのキャラクターです。彼女が林の中でドレスを脱ぐと、その下に何も身に着けていないのにまず驚き、セックスの後に彼女が水着を着始めるところにも驚いた。彼女は最初から、セックスに都合がいい格好で準備していたわけです。すごく積極的な女性です。それでいて、あまり嫌らしく見えない。この映画のセックスシーンは、淫靡な暗さがないのがいい。表現自体は露骨でも、明るいんだよね。

 サマードレスを着て自転車をこぐミックが、最初は照れくさそうにしていたのに、やがて開き直ってニヤニヤ笑い始める部分が最高。このくだりが、この映画のクライマックスでしょう。ここでミックは、自分の中に眠っていた、自分も知らないセクシャリティが目覚めることを感じるのです。たったそれだけの話ですが、面白い。

(原題:Une robe d'ete)


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