アインシュタインの脳

1998/11/27 日本ヘラルド映画試写室
プリンストンから紛失したアインシュタインの脳を探すドキュメンタリー。
最後に登場する衝撃的(笑劇的)な場面にビックリ。by K. Hattori


 1955年に亡くなった20世紀最大の物理学者アルバート・アインシュタイン博士の遺体は、遺言に従って火葬され、遺灰はまかれ、墓も存在していない。しかし死後の解剖で取り出された博士の脳は、研究のために保管されているという。はたして20世紀最大の天才の脳は、どこに存在するのか。世界的に有名なアインシュタインの研究家でもある近畿大学助教授の杉元賢治は、今もどこかで保管されているはずの「アインシュタインの脳」を探すためにアメリカに旅立つ。この映画は、その奇妙な旅を記録したドキュメンタリーだ。

 BBCテレビのプロデューサーであるケヴィン・ハルが、アインシュタインに関する番組製作の取材中に杉元助教授に出会い、カラオケで大いに盛り上がった席で「一緒にアインシュタインの脳を探そう!」と意気投合して作られた映画だ。英語が堪能とは言えない杉本先生が、大きな体を揺すりながら、ブロークンイングリッシュと関西弁のチャンポンで人々とコミュニケーションし、アメリカ中を西へ東へと移動して行く様子はおかしくて仕方がない。この映画の面白さは、アインシュタインの脳を探すというミステリーだけではない。アインシュタインに徹底的にこだわる、杉元先生本人のキャラクターが面白すぎるのだ。彼なしに、この映画はあり得ない。

 杉元先生はアインシュタインが死んだプリンストン大学を訪れるが、その保管庫にはアインシュタインの脳が存在せず、死亡記録も紛失していた。なんと杉本先生が訪ねて行くまで、誰もそれに気づかなかったのだ。そこで知らされたのは、アインシュタインの解剖をしたトーマス・ハーベイ博士という人物が、研究用に脳を持ち去ったまま行方不明になっているという事実だった。アインシュタインの脳を探すには、まずハーベイ博士を捜すしかない。しかしハーベイ博士を知るという研究者からは「ハーベイは死んだ」と聞かされたり、調べた住所をたずねていけば同姓同名の別人が出てきたり、数年前に開業していた病院を探し当ててももぬけのからだったりで、なかなかハーベイ博士は見つからない。それでも執念が実って、最後は無事ハーベイ博士とご対面!

 アインシュタインの脳を研究すると言って脳を持ったまま行方をくらましたハーベイ博士も変人だが、この映画に出てくる研究者たちは全員が変人だ。杉元先生もかなりヘンだが、脳のスライド標本に異常な執着を示す老研究者や、ホルマリン漬けの脳の標本を手に説明する女性研究者も変人だと思う。彼らは自分の手元にスライスされた標本が少しあれば、それ以上は何も望まない人たちなのだ。むしろ残された脳を通じて生身のアインシュタインに対面したい、という杉本先生の情熱の方が、僕には理解できるような気がする。

 アインシュタインの脳が登場する場面が映画のクライマックスだが、この場面は衝撃的ですらあった。最後のオチにもビックリ。これから映画を観る人にもビックリしてほしいので、内容はあえて書きません。

(原題:EINSTEIN'S BRAIN)


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