小さな兵隊

1998/11/24 ユニジャパン試写室
1960年に作られたゴダールの長編第2作目は残酷な政治映画。
アンナ・カリーナの長編映画デビュー作でもある。by K. Hattori


 今年はどういうわけか、ゴダールの映画が次々と劇場公開されている。そろそろ来年公開の映画の試写も回っているので「ここ1,2年」というのが正確かもしれないが、おかげでこれまでゴダール作品にまったく縁のなかった僕も、ゴダールの作品を何本か観ることになった。この『小さな兵隊』はゴダールが『勝手にしやがれ』の直後に作った長編第2作目で、ヒロインを演じているアンナ・カリーナにとっては長編映画デビュー作となった作品だ。じつは僕、この映画を先々週にも試写で観たのですが、その時は東京国際映画祭の直後だったせいかひどく疲れていて、試写の最中に眠りこけてしまった。眠っていても全体の6割も観ていれば「眠った」と断って感想を書くのですが、この時はたぶん8割ぐらい寝ていたか、意識がもうろうとしていたと思う。そんなわけで、今回は改めて試写に足を運んだ次第……。

 体調万全で出かけたはずなのに、今回も危うく眠りかけて慌てましたが、なんとか持ちこたえて映画を最後まで観た。なんだろう。僕はアンナ・カリーナと相性が悪いのだろうか。彼女の主演作『アンナ』では、2回試写を観て2回とも眠ってしまったもんな。困ったものだ。

 『小さな兵隊』は、政治と個人の関係をテーマにした映画だ。フランスの秘密情報部員としてジュネーブに駐在している主人公ブリュノは、各国のスパイがしのぎを削る中立国の中で自らも情報部員として働きながら、政治的なテロには軽蔑と嫌悪の気持ちを抱いている。彼は他の情報部員たちの連絡役を務め、町中でスナップ撮影にまぎれて重要人物の写真を撮るだけの仕事に満足している。暗殺やテロは、彼からは遠い世界の出来事だ。ところがそんな彼のもとに、突然、要人暗殺の命令が飛び込んでくる。情報局はブリュノを二重スパイだと疑っているらしい。疑いを晴らさなければ、彼は裏切り者だと断定されてしまう。やむを得ず、彼は銃を握りしめて何度か狙撃のチャンスを狙うのだが、ためらいとタイミングのずれからそれにことごとく失敗してしまう……。

 ごく平凡な日常に何の疑問も持たなかった若者が、周到に張り巡らされた罠に落ちてすべてを失う物語だ。無邪気に秘密任務に就いていた男が、ふとしたきっかけで退っ引きならない事態に陥るという展開は、先日観た『シークレット・エージェント』を彷彿とさせる。『シークレット・エージェント』はジョセフ・コンラッドの古典的な政治小説「密偵」が原作なので、案外ゴダールも、コンラッドを読んでいたのかもしれない。

 映画の一番の見どころは、主人公のブリュノがアラブ人テロ組織に拷問を受ける場面だろう。手錠で固定された手をマッチの火であぶるとか、浴槽に顔をつけるとか、眠らせないとか、顔に巻き付けた布にシャワーで水をかけて窒息させるとか、小型の発電器で感電させるとか、ひとつひとつの拷問は命に関わるものではないが、主人公は少しずつ衰弱して行く。この地味さが変にリアルだ。この場面は観ていてかなりゾッとさせられた。

(原題:Le petit soldat)


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