ラテン・ボーイズ・ゴー・トゥー・ヘル

1998/11/11 ユニジャパン試写室
ニューヨークのラテン系社会を舞台にした異色のゲイ・ムービー。
生活細部がきめ細かく描写されていて興味深い。by K. Hattori


 ニューヨークのラテン系社会を舞台にしたゲイ・ムービー。12歳の少年ジャスティンは、同居を始めた従兄弟エンジェルに片思いの恋をする。ところがエンジェルは、クラブで知り合ったアンドレアという女性と急接近。いたたまれなくなったジャスティンは、クラブに出入りするカルロスというプレイ・ボーイと関係を持ってしまう。それを知ったカルロスの恋人ブラウリオは、嫉妬の余りカルロスを殺してしまう……。

 話の中心は、交わることなくすれ違う、男と女の愛情の交差にある。ジャスティンはエンジェルが好き、エンジェルはアンドレアが好き、アンドレアはブラウリオが好き、ブラウリオはカルロスが好き、そしてカルロスはジャスティンにちょっかいを出す。単純な「男と女の関係」ならここまでこじれないのでしょうが、間にゲイが混じると恋のバリエーションは千変万化して、ありとあらゆる片思いの関係が成立してしまう。思慕の感情が、どこでも行き止まりにならならずに、次々と連鎖するのです。この映画はそんな関係を、67分という短い時間の中にギュッと凝縮している。

 しかしそれより面白いのは、ニューヨークのラテン系社会という、都会の一角にある特殊なコミュニティを描いている部分でしょう。家の中では母親がスペイン語でしゃべり、子供もそれに合わせてスペイン語で会話している。でも、家の外では基本的に英語。そんなバイリンガル環境が、何の説明もなしに描かれているのが面白かった。こういう映画を観ると、一部の国や地域では、バイリンガルという状況がごく普通であることがわかります。もっともアメリカの場合、一部地域ではスペイン語が公用語になっているぐらいですが……。

 ラテン社会はカトリック信仰が根強く、主人公ジャスティンの部屋にもマリア像が置いてあるし、ベッドにはロザリオがかけてあった。彼は熱心なカトリック信者だということでしょう。映画『司祭』を例に出すまでもなく、カトリックでは同性愛が御法度。(カトリックに限らず、宗教的な道徳律の中で同性愛に寛容なものはあまりない。)ジャスティンが自分の信仰と性的嗜好の間にどのような折り合いをつけているのかには興味がありますが、映画はあまりそこに深入りしない。これは、深入りしなくて正解でしょう。これをやり始めると、まったく別の映画になってしまいますからね。

 全体の印象としては、映画の最初にすべての材料をぶちまけて、それが一気に収束している印象を持ちました。上映時間が短いせいもありますが、普通の映画の感覚で観ると、物語がもう二転三転してくれそうな場面で終わってしまう。原作者のアンドレ・サラスと監督のエラ・トロヤーノが共同で脚本を書いているのですが、もう少し各キャラクターをふくらましてエピソードも追加し、せめて1時間20分ぐらいの映画にしてほしかった。主人公ジャスティン以外のキャラクターがみんな小粒で、もったいないように感じます。

(原題:Latin Boys Go To Hell)


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