スパイシー・ラブ・スープ

1998/11/06 ル・シネマ2
東京国際映画祭/コンペティション
複数カップルの恋模様を生き生きと描いたオムニバス映画。
中国初のインディーズ映画だそうです。by K. Hattori


 中国系アメリカ人のピーター・ロアが中国で製作した、「中国初のインディーズ映画」だそうです。少年少女の淡い恋から、人生の終わりを共に歩む伴侶を捜そうとする老人たちの物語まで、全部で5話のラブストーリーを、今まさに結婚しようとしているカップルのエピソードでつないだオムニバス映画。監督はこれがデビュー作となるチャン・ヤン。重厚長大なイメージがある中国映画とはひと味もふた味も違う、スピード感のある映画です。東京国際映画祭のコンペ作品を何本か観てきましたが、これはその中でもトップ・クラスの面白さでした。(感動では深作監督の『おもちゃ』の方が上ですけどね。)東光徳間の配給で日本公開も決まっているので、いずれ大いに話題になることでしょう。

 オープニングは中国風シャブシャブを食べているカップルの話から始まり、この恋人同士が結婚にこぎ着けるまでの話が、他のエピソード同士をくっつける接着剤の役目を果たしています。このあたりの処理は、伊丹十三監督の『たんぽぽ』を思い出しました。最初に登場するエピソードは、録音マニアの少年がクラスメートの少女に音のラブレターを届ける「声」というエピソード。次が、テレビでパートナー探しを呼びかけた老女が候補者3人と麻雀をする「麻雀」。3番目が、倦怠期を迎えた夫婦が子供のオモチャを通じて仲直りする「おもちゃ」。4番目は、離婚寸前の両親を仲直りさせようとする少年の、涙ぐましい努力を綴った「愛の特効薬」。最後が、路上で出会った男女の恋と別れ、偶然の再会を描いた「写真」。(劇中ではエピソードにタイトルが付いていませんが、プレス資料によるとこうなります。)

 こうしたオムニバス形式の場合、必ずエピソードによって出来不出来のバラツキが出るものですが、この映画はどのエピソードも水準以上の出来です。それぞれのエピソードにきちんと起承転結があって、短編映画としてもよくできている。原題にある「麻辣湯(本字は「湯」の下に「火」)」とは、映画の冒頭に登場する中国風シャブシャブのことですが、特にこの料理が映画全体に登場するわけではない。僕はこのエピソードに登場する男性と同じで辛いものが苦手なので、恋人の両親とよりによってこの料理を食べる羽目になる彼には同情しました。

 いろいろな種類のオカズがつまった、幕の内弁当のような映画です。ボリューム満点なので、好きなオカズだけつまみ食いすればよろしい。嫌いなものは残せばよろしい。どのエピソードもよくできていますが、「写真」は少し格好つけすぎのような気もする。「麻雀」は楽しめるエピソードですが、最後のオチがありふれているかな。もっとも、短編映画に凝ったオチを期待するのも間違いで、シンプルが一番かもしれませんが。「声」と「おもちゃ」は可愛いお話でした。でも個人的に一番身につまされたのは「愛の特効薬」でした。両親の不和を必死に修復しようとする幼い子供の姿は、オーストラリア映画『クワイエット・ルーム』も思い出させます。

(原題:愛情麻辣湯 Spicy Love Soup)


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