ブラック・マスク

1998/10/21 日本ヘラルド映画試写室
ジェット・リーが謎のヒーロー「ブラック・マスク」になって大活躍。
これは香港版『ユニバーサル・ソルジャー』だ。by K. Hattori


 ジェット・リー(リー・リンチェイ)主演の近未来アクション映画。某国の研究所で人体改造を受け、最強の軍隊701部隊の兵士となった主人公が、研究結果の抹殺をもくろむ軍の動きを察知して香港に逃げ込むが、やがてかつての仲間たちと戦うことになるという、香港版『ユニバーサル・ソルジャー』のような物語。しかしこの映画に登場するのは、不死身のサイボーグ戦士ではない。手術を施して痛覚神経を除去し、殴られても蹴られても銃撃されても、休むことなく戦い続けられる兵士たちだ。痛みを感じないので、手足が折れようが、全身に火傷を負おうが、銃撃で体中が穴だらけになろうが、心臓が止まるまで戦いは終わらない。しかし、ダメージだけは確実に蓄積される。出血が多ければ、いずれ失血死してしまう。我々と同じ生身の人間としての弱さを、主人公も持っているのです。これがユニークな点かな。

 香港で図書館員として静かな生活を送っていた主人公は、麻薬組織の幹部たちを狙った連続襲撃事件の裏に、かつての仲間であった701部隊が存在することを知る。701部隊は香港の麻薬組織を潰すことで、自分たちが香港の麻薬売買を仕切るつもりなのだ。彼らにとって、自分たちの正体を知る主人公はやっかいな存在。味方につければ百人力だが、敵に回れば計画遂行にとって最大の障害となる。701部隊は主人公を仲間に誘うが、主人公はこれを断固拒否。こうして主人公は、親友のシック刑事と共に701部隊と戦うことになる。覆面で正体を隠した「ブラック・マスク」として……。

 物語は『ユニバーサル・ソルジャー』の二番煎じだし、展開にかなり無茶なところが多いにも関わらず、スピーディーな展開で最後まで一気に見せてしまう作品。「あそこがヘンだ」「ここがおかしい」と指折り数えだしたら、両手の指では足りないぐらい欠点のある映画なのに、映画を観ている最中はひたすら楽しめる。荒唐無稽な物語の設定と、華麗すぎてシュールな域にまで達しているジェット・リーのアクション、加えて子供向きのヒーローもののような仮面姿など、物語の中心になる要素は、限りなくナンセンスな方向を目指している。ところがそこに、『つきせぬ想い』や『裏町の聖者』のラウ・チンワンと『天使の涙』『食神』のカレン・モクが入ることで、底が抜けそうな物語の土台をがっちり固めているのです。このふたりがいなかったら、この映画の印象はもっと安っぽくなっていたことでしょう。

 アクションシーンでは、鉄塔の上での立体的な格闘シーンに興奮させられた。アクション監督のユエン・ウーピンは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』でも立体的な空中戦を編み出した人です。701部隊の隊長と戦うクライマックスでは、スパークする電源ケーブルを使った打撃戦が面白かった。同じような殺陣はワンチャイ・シリーズでも観ていますが、電源ケーブルにすることで、破壊力が数十倍にアップしている。これはアイデアだよなぁ……。

(原題:黒侠/BLACK MASK)


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