Mr. マグー

1998/10/16 ブエナビスタ試写室
'60年代のTVシリーズをレスリー・ニールセン主演で映画化。
障害者差別の意図はないそうです。by K. Hattori


 『裸の銃〈ガン〉を持つ男』シリーズのレスリー・ニールセンが、缶詰工場の経営者にしてアメリカ有数の大富豪、人格高潔温厚ながら目が悪くてトラブルばかり起こしている老人、ミスター・マグーを演じるコメディ映画。ミスター・マグーというのは、1950年代から'60年代にかけて映画やテレビで親しまれていたキャラクターらしいので、今回は例によってハリウッドの「リバイバル・ブーム」に便乗した企画です。日本ではやはりテレビ番組リメイクの『ジャングル・ジョージ』と2本立て公開。内容的に僕は『ジャングル・ジョージ』の方が面白いと思うし、プレス資料などを見ても『Mr. マグー』は添え物扱い。レスリー・ニールセンの主演映画が添え物とは、なんとも豪華2本立てです。

 クリスタン王国の秘宝である世界最大のルビー“スター・オブ・クリスタン”を巡り、宝石泥棒とミスター・マグーが争奪戦を繰り広げる物語。美人泥棒ルアンは、依頼主であるオースティンを裏切って宝石を横取りしようとするが、手違いから宝石はミスター・マグーの手に渡る。警察は宝石強奪現場に偶然居合わせたマグーを、宝石泥棒の容疑者として厳重監視。さらに、クリスタンの王女ステファニーとマグーの甥っ子ウォルドーのロマンスなどもからめつつ、物語は混乱を深めて行く。トラブルの元凶は、マグーの目が不自由で、いつも頓珍漢な行動をすること。目の前にあるルビーを犬のおもちゃと間違え、何度も庭に放り捨てたりする。

 ルアンを演じているのはケリー・リンチ。黒幕オーシティンを演じるのは、ベテランのマルコム・マクドウェル。彼は『時計仕掛けのオレンジ』のニヒルな青春スターから、『ブルー・サンダー』などの悪役を経て、現在はとぼけた三枚目を演じる俳優です。最近では『ヒューゴ・プール』という作品もありましたっけ……。監督のスタンリー・トンは、これがハリウッド・デビュー作。ジャッキー・チェン主演の『プロジェクトS』や『レッド・ブロンクス』が評価されての、アメリカ進出でしょう。この映画でも、最後にゴムボートが滝壺に落ちて行くという、大スタントシーンを取り入れています。僕は最初「どうせ合成だろう」と思ったのですが、エンドタイトルにあるNG集(香港アクション映画ではお馴染み)を見る限り、これはスタントマンをヘリコプターでつり下げたライブアクションのようです。

 目が悪いために何度も危機に陥りながら、本人は目の悪さからそれを認識できずに平然としているというのが、この映画の中心アイデアです。「盲蛇に怖じず」ということわざを、そのまま映画にしているようなものです。これは日本では絶対に映画化不可能な話です。さすがにハリウッドでもこれが障害者差別スレスレだと感じたらしく、映画の最後には「この映画に盲人や弱視を笑いものにしようとする意図はない」という断り書きが出ます。いかにも申し訳程度のものですが、これさえ出せば映画が作れるアメリカはやはり偉い。

(原題:Mr. Magoo)


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