ワンダフルライフ

1998/10/13 徳間ホール
あなたにとって、人生の中で一番の思い出は何ですか?
そんな素朴な問いかけが心にしみる映画。by K. Hattori


 死んだ人間が天国に入る前、生前の思い出の中から一番印象深かったものを選ぶまでの物語。人間は天国で、その思い出だけを持って永遠に生き続ける。選ばれなかった思い出は、すべて忘れ去られてしまう。数十年の人生の中で、永遠に持ち続けるに値する思い出は、はたしてどんなものだろうか? いわばその思い出は、その人の全人生のエッセンスです。この映画は地味な作品ですが、「改めて人生を振り返る」というテーマが観客の気持ちを刺激して、観る人ごとにいろいろな感動が味わえることでしょう。観客を感動させる方法としては『ディープ・インパクト』と同じ「感動の五百羅漢構造」になってます。観客は登場人物の中に自分に似た誰かを見つけ、そこに感情移入することでしょう。

 映画には俳優の他に、オーディションで選ばれた一般の人たちが何人か出演し、自分自身の思い出を語っています。僕は役者たちが演じる芝居より、こうしたドキュメンタリー風の場面の方が面白かった。死者たちを送り出す係官たちが、亡くなった人たちの大切な思い出を映画にする場面で、映画がフィクションの枠組みを離れて、純粋なドキュメンタリーになってしまうシーンがいくつかあり、僕はそこに感激してしまった。兄とカフェでチキンライスを食べたことを一番の思い出に選んだお婆さんが「今日は兄の仏壇に報告してきました」と語る場面や、竹藪の中で握り飯を作りながら、関東大震災の思い出を語るお婆さん……。これらの場面は、映画としては完全に破綻してます。でもその綻びが、映画と観客の間にあった距離をゼロにしてしまうのです。その瞬間には、言いようのない感動があります。特に後者は、僕も祖母から関東大震災の炊き出しの思い出を聞いたことがあるので、我がことのように感激してしまった。自分も映画の中に入り込んで、登場人物たちと一緒にお婆さんの話を聞いているような気がしました。生の素材がこんなに魅力的なので、作り物の芝居がいかにも作り事めいて見えるのが、この映画の最大の欠点でしょう。

 個人的には、ロケ地になった場所が自分の住まいと目と鼻の先だったことで、多少の親近感は感じました。こんな映画を作っていたなんて、僕はぜんぜん知りませんでしたけど……。あと、思い出を再現するために映画スタッフたちが打ち合わせをするシーンや、撮影所のスタッフたちが臨機応変にセットや特殊効果を作り替えて行く場面も、「映画を作る映画」として楽しめます。

 再現フィルムを作る場面は延々映しているくせに、実際にできあがった再現フィルム自体は観客に観せないという構成もよかったと思う。思い出はそれぞれの胸の中にだけ存在して、フィルムはそれを鮮明にするための引き金でしかないのですから……。

 監督は『幻の光』の是枝裕和で、これが第2作目。これが映画初出演となる若い俳優たちに混ざって、ベテランの俳優たちががっちりと物語の土台を支えています。完成度はイマイチですが、心に残る映画です。


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