女と女と井戸の中

1998/10/08 日本ヘラルド映画試写室
オーストラリアの新人監督が作ったレズビアン・ムービー。
前半は退屈だけど、後半は面白い。by K. Hattori


 オーストラリアの新人監督サマンサ・ラングが撮った、ミステリー仕立てのレズビアン・ムービー。年老いた父親とふたり暮らしをしている中年女ヘスターのもとに、キャサリンという若い女が家政婦として住み込むことになる。ヘスターに同性愛的な愛情を注ぐヘスターと、幼い頃から家族の愛情に飢えていたキャサリンの関係は、家政婦と雇用主という関係から、やがてヘスターがキャサリンを養うような関係に変わって行く。父親が死んで広大な土地を相続したヘスターは、遺産を現金に換え、キャサリンとふたりで土地の隅にある小さな家で暮らし始める。だがある夜、酒に酔ったキャサリンの運転する車が男をはね殺した。ふたりは死体を家の前にある涸れ井戸に捨てるが、翌朝になって、ふたりは家の中から一切の現金が消えていることに気づく。どうやら昨夜はねた男は泥棒で、逃げる途中でキャサリンにはねられたらしい。それに気づかなかったふたりは、男の死体と一緒に全財産も井戸に捨ててしまったのだ……。

 正直言って、僕はこの映画にあまりのれなかった。ひき逃げ事件の証拠隠滅と、紛失した現金を巡り、ヘスターとキャサリンが精神的に追いつめられて行く後半はまずまず観られるのですが、そこに至るまでの前半が退屈でしょうがない。映画の冒頭にまず事故の場面を入れ、そこから物語が過去に戻って……という構成は、こうした「退屈な映画」を多少は救おうという努力の現れかもしれないが、導入部の事故の描写があまりにも唐突で短時間なので、観ているこちらは何が起こったのかさっぱりわからない。どうせやるなら、ヘスターが車から降りて死体を確認するまでしっかり描き、そこから物語を過去に戻してほしかった。処理としては中途半端です。

 主人公たちふたりの描写も、いささかわかりにくい部分がある。年輩のヘスターがキャサリンに惹かれている様子はよくわかるのだが、彼女がキャサリンのどこに惹かれているのか、そもそもふたりのなれそめはどこにあったのかが見えてこない。画面からはヘスターの一方通行の愛情だけが見えてきて、キャサリンの気持ちが一向に見えてこないため、最後にヘスターが悲惨な運命に見舞われることが最初から予期できてしまう。出会いの場面から描けとは言わないが、例えば父親に紹介するときに、ちょっとした言葉での補足をするとか、ふたりの会話の中で少し語らせるとか、工夫のしようはあったはずです。また、ヘスターが自分の同性愛的な愛情に気づいているのかいないのかも、映画の中では非常に不明確だった。主人公がこの調子だから、映画全体もぼんやりとテーマが不明確になっているのだ。

 前半の不明瞭さに比べて、後半の心理的ミステリーはなかなか秀逸だ。涸れ井戸の上にかけてあるトタンの覆いが風でガタガタなり、それが井戸の底でうめく男の声のように聞こえるという、ホラー映画顔負けの恐怖シーンがある。この緊張感が前半でも出ていれば、この映画はもっと面白い作品になっただろうに。

(原題:The Well)


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