N.Y.殺人捜査線

1998/10/05 GAGA試写室
伝説の警官ボウ・ディートルの自叙伝を原作とした警察映画。
脚本構成が見事でクラシカルな印象の作品。by K. Hattori


 暴力が日常茶飯の貧民街で育った幼なじみであり、大人になっても親友同士のボウとリッチー。ボウはNY市警の警官、リッチーはマフィア組織の中堅幹部と、ふたりの立場はまったく離れている。だが彼らは、そんな立場を越えて友情を守っているのだ。裏社会に通じているリッチーはボウに情報を流して彼を助けることもあるが、それに何かしらの見返りを期待することはない。ボウも警官としての仕事に誇りを持ち、リッチーに仕事の情報を流すことはしない。それがふたりにとって、友情を守り通すための最低限の約束事なのだ。だがFBIはそんなボウの友情を利用して、リッチーのいる組織の内情を探ろうと考える。協力を拒んだボウは、逆に組織から利益供与を受けている汚職警官として処罰されるという。何がなんでもボウを捜査に協力させたいFBIは、汚職の証拠を捏造してボウを脅迫してくるのだ……。

 原作は'69年から'85年までNY市警に勤務していた警官、ボウ・ディートルの書いた自叙伝『ONE TOUGH COP』。映画では時代背景を現代に移し、周辺人物の名前も架空のものに変えているという。「実録物」を銘打っても、ストーリーの大半はオリジナルだろう。幼なじみのうち、ひとりは警官、ひとりは犯罪者になるという話は、O・ヘンリーの短編にもあった古典的アイデア。この映画ではそこに、警察の内務調査、ギャンブルで破滅してゆく同僚警官、女性を巡る三角関係などをからめて、物語にボリュームを出している。

 主人公ボウを演じているのは、『ユージュアル・サスペクツ』のスティーブン・ボールドウィン。今回は役作りのため、10キロ体重を増やしての出演だ。ギャンブル狂で破滅型の同僚警官のデュークを演じているのは、『フューネラル』でもぶち切れた芝居を披露したクリス・ペン。ボウの親友でマフィア幹部のリッチーを演じているのは、『マクマレン兄弟』『彼女は最高』のマイク・マクグロン。リッチーの愛人で、後にボウと恋に落ちるレストランの女主人ジョーイを『バウンド』のジーナ・ガーションが演じている。

 ウィリアム・ボールドウィンはアレック・ボールドウィンやスティーブン・ボールドウィンの弟だし、クリス・ペンにはショーン・ペンという個性派の兄貴がいる。リッチー役のマクグロンも、『マクマレン兄弟』と『彼女は最高』で常に末弟を演じていた。こうして公私にわたる弟俳優が3人並んだことで、この映画の若々しくて新鮮なイメージが強調されているように思える。そこにポツンとお姉さまタイプのジーナ・ガーションが入ってくるから、彼女が頼りがいのある女に見えるのだ。このあたりのキャスティングは、狙ったのか偶然かわからないが、劇中での効果は抜群だと断言できる。

 大騒ぎするような大作ではないが、小さいながらもしっかりとまとまった脚本と演出で、観終わった後に確かな手応えを感じられる作品だ。銀座シネパトスという小さな劇場での公開だが、機会があったら観てほしい。

(原題:ONE TOUGH COP)


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