ザ・ハリウッド

1998/09/07 東映第2試写室
ビデオショップ「ハリウッド」に集う人々を描いた人情ドラマ。
監督は大映京都撮影所出身の野村惠一。by K. Hattori


 京都にあるレンタルビデオ店「ハリウッド」に集う人々を通して、映画の素晴らしさや、かつて映画の都であった京都の歴史を振り返るという物語。チラシには日本版『ニューシネマ・パラダイス』のようなことが書いてありますが、むしろビデオ屋版『虹をつかむ男』かな。地方の映画館経営も苦しいけど、レンタルビデオ屋も甘くない。一時期は成長産業だったビデオショップも、今では全盛期に比べると数が減って、固定した市場になってます。お店を開けば客が来るという時代は終って、これからは店員の映画に対する知識や愛情が求められるようになるのかもしれません。結局、映画とビデオは仇同士ではなくて、同じ「映画ファン」を相手にした同業者なんだよね。この映画は、そういう立場に立っている。

 『フィールド・オブ・ドリームス』をみたことがきっかけで脱サラし、ビデオ屋を開いたという店長。小津安二郎の『麦秋』を偶然みて、日本への留学を決意したというアルバイトのイギリス人。ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』をみて、自殺を思いとどまったという家出少年。映画黄金時代に、撮影所の大部屋俳優としてチャンバラ映画に出演していた経験を持つ老人。この映画には、映画に出会ったことで人生が変わってしまった人が何人も登場します。必ずしもそれが幸福なことではないかもしれないけれど、彼らは映画について語るとき、じつに楽しそうな表情をしている。映画はほとんどの人にとって一過性の娯楽なんだけど、中にはそれが人の人生を左右することもあるのです。この映画には、町中の普通の人たちに「あなたにとって一番大切な映画は?」とインタビューする場面が挿入されている。たぶんここで名前が出てきたような映画も、それぞれの人生に少しずつ影響を与えているに違いないのです。

 「映画が好き!」という気持は伝わってくるものの、映画のできは中の下クラス。好感は持つけど、下手なものは下手です。映画好きのイギリス人留学生が主人公なのかと思わせておいて、途中から主役がアルバイトの日本人に交代するという木に竹を接いだような構成。主要登場人物だった留学生と中国人ダンサーは前半の3分の1ぐらいで姿を消してしまい、ここで取り上げられた「映画の中の日本」と「現実の日本」を「外国人の視点」から眺めるというモチーフは、中途半端なまま放置されてしまう。この後、映画は何の必然性もなくアルバイト青年に視点を移すのだが、僕はこのサボリ魔青年にまったく好感を持てないまま映画を観終えてしまった。

 「僕、映画が好きなんです」「映画っていいよね」だけだったら、普通の映画ファンと同じです。そこを出発点に映画を作るなら、「映画が好き」という気持を足場として、新しい物語を作る必要があるだろう。この映画を観ても、僕は「それがどうしたの?」「がんばってね」としか言えない。どうしても「一緒にがんばろう!」と思えない。それがこの映画の、最大の欠点でしょう。あと一歩踏み込んでくれればよかったのに……。


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